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新幹線殺傷事件「不適切表現」報道、なぜ炎上したか?

コラム

事件報道におけるメディアの役割とは?

新聞

「加害者の人権」や「障害者擁護」を優先すると、無責任な事実隠蔽となりかねません。正しい知識の普及を妨げるだけでなく、社会不安をより一層煽り、障害の偏見をかえって助長してしまうことが多いのではないでしょうか。

 発達障害に気付かないまま、「うつ」「強迫性障害」「行為障害」「ひきこもり」などの二次障害を起こし、現場での支援が得られずに困っている家族関係者は多いのです。

 親が心配して、勇気を持って医療機関や行政に相談に行ったにもかかわらず、「勉強もできてまじめで問題ない」「思春期にはよくある心理」と診断され、親の心配の最中に事件を起こしてしまうケースもあるのです。

 発達障害の認識は広まりつつありますが、家族や関係者が発達障害の特性について正しい知識を得て、医療関係者や学校、時には職場などと連携し、支援体制を構築できていたら、子どもは加害者とならず、犠牲者が出ることなく済んだかもしれないのです。そうなれば、事件と発達障害が少しずつ切り離されていくことになるのではないでしょうか。

マスコミは障害に対する誤解の解消に努めよ

マスコミ 報道

 今回の事件に関しては、家族は子どもの障害を知っていたとのことですが、医療従事者はどういったアドバイスをしたのでしょうか。

 長期的にみた場合、正確な報道によって発達障害に対する知識が深まっていくことが、子どもや家族、関係者にとっては大きなプラスになるのだと思います。

 犯罪はひとつだけの要因ではなく、「複合的な要因」によって起こります。障害だけが原因ではなく、いじめや周囲とコミュニケーションがうまくとれなかったことで何らかの不適応を起こし、事件を起こしたと考えられます。

 前述した書籍でも詳しく書きましたが、発達障害と犯罪を短絡的に結びつけることに対して、これまで繰り返し議論がなされてきました。

 今後はこの障害に対する誤解の解消にマスコミが努めると同時に、事件を正しく理解するうえで必要な情報を、公正かつ正確に報道することがメディアの役割なのだと考えます

 もうこれ以上、理不尽な被害者を生んではならないのですから。

<TEXT/草薙厚子>

ジャーナリスト、ノンフィクション作家。法務省東京少年鑑別所法務教官、通信社ブルームバーグL.P.を経てフリーに。著書に『少年A矯正2500日全記録』(文春文庫)、『ドキュメント発達障害と少年犯罪』(イースト新書)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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