“自粛警察”が低所得層を苦しめる…広がるコロナの被害
低所得層への影響はこれから
一見したところ影響を受けやすいと思われがちな低所得層については、今は影響の度合いが低いと飯田氏は話す。
「低所得層はもともとお金がないので固定費も低いことは有利に働きます。ただ、営業自粛を強いられている飲食店が軒並み閉店していることはこの層に甚大な影響を及ぼします。飲食サービスのように特別な技能を必要としない、未熟練労働市場が崩壊することは由々しき問題です。同様に、スナックや風俗などの夜の店も閉店が相次いでいますが、これらは都市インフォーマルセクターと呼ばれ、未熟練で経歴を問わず働ける点で、社会に必要なバッファーでした。要するに失業者や社会的弱者の受け皿が消滅しているのです」
リーマンショック時には、飲食サービスが少なからず派遣切りされた人々の受け皿になった。それを発端に飲食店でのブラックバイトが明るみに出たが、コロナ禍ではそれすら消滅するのだ。
「未熟練労働者を吸収してきた飲食業が縮小すれば、あぶれた労働者が他業種に殺到します。彼らは低賃金でも働かざるを得ないので、この層が従事する職種で賃金の下降圧力が強まり、じわじわ低賃金化が進む可能性があります。このような状況を鑑みると、今最も厳しいのは中流層、そしてこれから徐々に悲惨な状況に追い込まれるのが下流層と言えるでしょう」
「コロナとの共存」というマインド
緊急事態宣言期間は営業中の店を市民が非難するなど飲食サービスへの風当たりは強かったが、こうした“自粛警察”の善意がますます低所得層の行き場を失わせるというわけだ。
「ウイルスによる死者をゼロにすることはできません。インフルエンザや結核、さらには交通事故でも毎年多数の死者が出ている。それでも我々は経済活動を続けてきたわけです。しかし、“自粛警察”や“コロナ脳”などと言われる人々はこのような視点を持たない。彼らのように異常にコロナだけを恐れる行動は極めて危険であり、社会に悪影響を及ぼしていきます。政治にもこのような大きな声だけを拾わず、経済活動を再開させる決断が求められます」
我々には「コロナとの共存」というマインドが求められている。
【飯田泰之】
経済学者。明治大学政治経済学部准教授。経済政策、マクロ経済学が専門。著書に『日本史に学ぶマネーの論理』(PHP研究所)など
<取材・文/真島加代・片岡あけの・山中千絵・沼澤典史・松嶋千春・野中ツトム(清談社)松浦達也 撮影/遠藤修哉(本誌)写真/アフロ 時事通信社>