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自分の未来をコントロールするには?文豪・森鷗外に学ぶ「カオス理論」

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エリート医学生である岡田

医学 イメージ

 物語は岡田という医学生の話から入る。清廉潔白で、その人間性が顔つきにもあらわれている好青年だ。それでいて将来は医者である。大学進学率が1%以下という時代にあってどのような存在であるかは想像に難くない。

 岡田という学生の紹介が終わると、お玉が当時でいう「囲い者」「妾」になるまでの過程が語られる。末造がお玉の父親と話をつけ、妻の目を盗んで家を手配し、そこにお玉を住まわせて……と、物語はすすんでいく。

 さて、そんなお玉と岡田とが出会うきっかけは、末造がペットとしてお玉に買った紅雀だった。お玉の紅雀を一匹の蛇が狙ってきたところを、たまたま通りがかった岡田が助けたのである。そこから岡田とお玉の距離が少しずつ接近していく。お玉は末造に気づかれずに岡田と二人きりになれる機会をつくろうとあれこれ画策する。

お玉と岡田が一夜を過ごすチャンス到来

 ここまでは、時代背景はあるものの、普通の恋愛小説的要素が強い。この記事をここまで読んで「どこがカオスなんだ?」と思われた方も多いだろう。だが、『雁』は後半になって一気に様相が変化する。少しあっけない、意外な展開を見せる。

 お玉にとって末造から完全に自由になる日がついにやってくる。お手伝いさんも実家に帰してしまい、岡田と2人になれるチャンスである。お玉は家を片付け、髪や化粧を整え、いつも岡田が歩いてくる時間を心待ちにする。岡田が歩いてきたら家に誘って一夜を過ごそうというのである。

 さあここでクライマックスか、と思いきや、話はいきなり青魚の味噌煮込みへと飛ぶ。西洋の『釘一本』という話でいう釘の役割をここでは青魚の味噌煮込みが果たすのだ。

 一体何のことかと思われるだろうが、最後まで読めば理由がわかる。なお『雁』の中では詳しく触れられていないが、『釘一本』というのは「馬の蹄鉄の釘が一本抜けていることを軽視した結果として大事な馬を死なせてしまう」というグリム童話の中の小話である。

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