ストレスがなさすぎる楽な仕事は、幸福度を下げる
通勤電車に乗っていると、現代のビジネスパーソンがいかに大きなストレスに晒されているか実感するでしょう。
会社に着いても、残業が続いても、嫌な上司との飲みに誘われても、そこからまた満員電車に揺られて帰途についても、ストレスはついて回ります。そんなストレスから解放されればどんなに清々しい思いがするだろう、と誰もが思うでしょう。
ところが、ストレスは必ずしも心身の健康や幸福にとって悪玉ではないということが、現代の科学では明らかになりつつあるようです。どういうことでしょうか。著書多数のサイエンスライター鈴木祐氏の著書『科学的な適職』(クロスメディア・パブリッシング)から紹介します(以下、同書より)。
できるだけ負担が少ない仕事をやりたいが…
誰でもハードな仕事は嫌なものです。できるだけ負担が少ない仕事を選びたくなるのが人情でしょう。
月の残業が80時間を超すようなハードワークの弊害は言うまでもなく、仕事のストレスが大きい人は脳卒中や心筋梗塞などにかかりやすく、そのせいで早死にのリスクも高いことが多くのデータでわかっています。仕事が楽でストレスがなければリラックスして作業に取り組めますし、パフォーマンスが上がりそうな気もしてくるでしょう。
しかし、これも幸福度という点から見れば大きな間違いです。ストレスが体に悪いのは確実なものの、その一方では「楽すぎる仕事」もまた、あなたの幸福度を大きく下げてしまいます。
事実、過去に行われた複数の研究が、会社内で高いポジションに就いたエグゼクティブほど健康で幸福度が高い事実を示してきました。彼らは周囲の部下よりもあきらかに仕事の量が多いにもかかわらず、風邪や慢性病などにかかりにくく、日中の疲れを感じずに活動できていたのです。
さらに3万人の公務員を対象にしたイギリスの研究によれば、組織内で地位のランクがもっとも低い人は、ランクが高くより重大な仕事を行う人に比べて死亡率が2倍も高かったのだとか。
これは人間以外の種族にも見られる現象で、ケニアのサバンナで暮らすバブーン(サル目の動物、日本ではヒヒ)を調べた研究でも、仕事の少ない個体ほどストレスホルモンの量が多い傾向が確認されています。どうやら、仕事の負荷が低いからといって必ずしも精神的に楽になれるわけではないようです。
それでは、ハードワークで体を壊す人がいる一方で、大量の仕事をこなすことで逆に幸せになれる人がいる理由はどこにあるのでしょうか?