“毒親”と衣装で読み解く「エルトン・ジョン」伝記映画監督が語る
キラキラ衣装に隠されたエルトンの心
――エルトンは派手な衣装を着ることで有名ですが、彼の衣装が実は、彼の内面を覆い隠す“鎧”のような意味をもっていたという解釈が斬新でした。
フレッチャー監督:ダイレクトにエルトンはそう言いませんでしたが、そういったニュアンスのことは話してくれましたね。多くのアーティストにとってステージ衣装は“鎧”や、“変身”するためのツールなんじゃないかな。タロンがステージ衣装を身に着けたとき、「なんだか違う自分になった気がする。もっと勇気のある別の人格が出てきたみたいだ」と話していました。
エルトンがエルトン・ジョンとしてデビューする前に、モータウンのバンドに入っていましたよね。あの時、バンドのメンバーはジーンズを着てタバコを吸い、ビールを飲みながら自宅にいるように演奏していました。
でも、エルトンにはそれでは物足りなかったんです。きらびやかで派手な衣装を身に着けて不安定で自信のない弱い自分をショーマンへと昇華しました。こういった彼の内面を、衣装の視点からも深く掘り下げたかった。
「人生は素晴らしいものになり得る」
――以前にも『サンシャイン/歌声が響く街』(2013)など、ミュージカル映画を監督されていますが、いままでに影響を受けたミュージカルは何でしょうか?
フレッチャー監督:ボブ・フォッシー監督の『オール・ザット・ジャズ』(1979)は、主人公の監督が過労で倒れて意識がなくなっていくなか、ミュージカルを観ているように自分の人生を回想していく物語ですが、実際にエルトンやプロデューサーのデヴィッド・ファーニッシュからも「この映画を参考にしたらどうか」と言われていました。
悪魔のようなステージ衣装を着たエルトンが「自分が何者なのか―天使なのか悪魔なのか―分からない」という苦しみから自分の人生を回想していくという本作の始まりは、このミュージカル映画にインスピレーションを受けましたね。
あとはベット・ミドラー主演作『ローズ』(1980)なんかもしょっちゅう観ています。とてもパワフルで素晴らしい作品で、若くして成功したロック・スターの人生が崩壊していく様子を描いています。これらのミュージカル映画にある音楽、パフォーマンスや物語性だけではなくて、そこにあるパワーや魂、「生きている!」というライブ感、そして、“人生の複雑さ”を、『ロケットマン』の観客にも感じてほしい。
――監督はなぜ、“人生の複雑さ”を伝えたいのですか?
フレッチャー監督:現代では核家族が多くて、エルトンが幼い頃のように祖父母や親せきたちと同居はしていません。昔は自分の家で生まれて自分の家で死に、大家族や近所の人に囲まれて暮らし、彼らから「人生の輪(『サークル・オブ・ライフ』:エルトン・ジョンが作曲した映画『ライオン・キング』の主題歌)」を学ぶことができました。
この映画のテーマのひとつは、「人生は大変だ。でもみんな同じ。自分の人生だけが大変なわけじゃない、誰の人生でも素晴らしいものにもなり得る」ということ。エルトンの人生を通して、そんな希望をみんなにもってもらえたら嬉しいですね。
<取材・文/此花わか>