東大中退ラッパーが吠える「若者の政治離れは大人のせい」
東京大学中退という異色な経歴を持ちながら、明晰な頭脳を生かしマルチに活躍するラッパー・ダースレイダー(42歳)。
この連載では、2010年に脳梗塞で左眼の視力を失い、一度は余命5年を宣告された彼が、現代日本で起きている政治や社会の問題に斬り込む。今回のテーマは「若者の政治離れ」だ。2019年7月に行われた参議院選挙では、投票率が戦後2番目の低さとなる48.8%であった。
特に若年層での低さが目立ち、18歳と19歳を合わせると投票率は31.33%。全体の投票率を大きく下回る結果となっている。
若者は「政治で何かが変わる体験」をしていない
――なぜ、若者の投票率は低いのか?
ダースレイダー:30代中盤くらいまでの人たちって、政治によって何かが変わるという体験をしていないんですよ。政治というものに関わることで自分らの生活環境が変わったり、親の生活環境が変わったりだとか、そういったドラスティックな変化をそもそも体験していないし、記憶もしてないから、急に参加しろっていわれても、「何になんの?」って、実感としてわからない。ギリギリ民主党政権を経験していたとしても、不慣れな政権運営だったり、東日本大震災もあったから、そもそも政治うんぬんっていう経験ではなかった。
年金の話だって若年層の人にとってみたら「何年先の話だよ」っていう。リアリティはまったく感じられないよね。
よほど関心をもって歴史とかを勉強していた人であれば別だけど、現在の若者の労働環境とかを考えると、忙しくて自分の生活のパーセンテージを幾分も割く余裕がない。で、基本的には今がギリギリだから、これで変わって悪くなったりしたらエラい困るし。っていう、体験してないものに対する恐れがあるんだと思う。
変化してよくなるってことが想像できないから、多くの人が現政権という“現状維持”のほうに投票しているし。「投票しない」という選択をしているということ自体が意思表示だという意見もある。単純に「現状維持でいいです、この議論には不参加です」という意思表示をしていると。
でも、それって「選挙のこと考えている前提でしょ?」「現状を知ってる前提でしょ?」って。そこ整えてないで、急にムチでバーン叩かれて、お前投票行けって言われても、まあきついでしょう。
メディアが「現状」を報道できていない
ダースレイダー:ただ、「投票しない」という意思表示をした結果、現状維持になるのかってところまで考えたら「あれ、今の政権に任せたら現状維持できないんじゃね?」と気づく。それで初めて、政治参加できる。
でも、そこに至るまでには、まずはメディアが「現状って何?」ってところをちゃんと報道しなきゃいけない。現状を維持するためには何が必要かっていうことも情報として提供しなくてはいけない。
日本は選挙が公示されてからそれらの話題が逆に減るっていう国です。すべての候補を中立に報道しなければいけないっていう謎の日本のルールがあって、それをやろうとすると全候補者を扱うのは無理だから、結局何も扱わないっていう逆転の方向に行っている。
せめて7月4日に公示があってから連日選挙の話をするっていう意識で報道が動かないと。それで視聴者が「選挙の話ばっかりでイヤだな~」って思っても、勝手に耳に入ってくる状況が当たり前にしとかないと、まあ難しいと思いますね。
アメリカ的な考え方ですけど、メディア全体としてバランスが取れていればよくて。ひとつの局、ひとつの番組の中でバランスを取ろうとするから難しくなるわけで。50分の番組内で全部をバランスよく取り上げるって無理なんで、もう思考停止しちゃってる。報道の決まりはもう考えずに、各番組ごとにどんどん選挙を盛り上げていくということでいいと思う。