難民問題を描いた監督が語る「存在のない子供たちの声」
ヒューマニティに希望はある
――監督はこの作品を通して、この世界のダークなリアリティを実際に体験されたわけですが、ヒューマニティに希望があると思いますか?
ラバキー:希望はあると心から信じています。ゼインがその証拠。スラムで育った子供たちの75%は自分たちが体験してきたことを繰り返すという調査結果があります。つまり、虐待を受けた子供は大人になったら虐待をする側に回ってしまう。
でも、25%の子供たちはスラムから抜け出して逆境に打ち勝ち、人生でなにかを成し遂げることができるんです。ゼインが属するこの25%の子供たちこそが、希望と言えるのではないでしょうか?「なぜ僕を産んだんだ? 僕には生まれる価値があるの?」とゼインは両親を告発しますが、彼のような子供たちに私は「イエス」と答えたいーー。
――ラバキー監督は小さな頃、レバノンで戦争を体験されたとか。
ラバキー:戦争下では外へ出て遊ぶこともできず、いつもシェルターや家の中で砂袋の影に潜んでいなくてはいけませんでした。ちょうどビデオ屋さんの2階に住んでいたので、ビデオやテレビを観ることが唯一の現実逃避。アメリカのドラマ『ダラス』や『ダイナスティ』から英語をマスターしてしまったぐらい!(笑)
戦争中はしょっちゅう停電していたので、電気が戻りテレビをつけるときが私の生活のハイライト(笑)。同じビデオを何度も繰り返し観て、子供心に「いつか絶対、現実とはまったく違う楽しいリアリティを作りたい!」と思っていました。
それから、死と隣あわせで生きながら、家族の面倒を毎日きちんとみる強い女性たちをみながら育ったので、「私も、何ごとにも負けない、彼女たちのように強くなる」と心に決めていましたね。明日はなにが起こるか分からないという状況で生きたからこそ、強くなれたと思います。
<取材・文/此花さくや>