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近畿大学創立100周年!3800万回再生された「近大スピーチ」の原点とは?

近畿大学創立100周年!3800万回再生された「近大スピーチ」が書籍に

2025年に創立100周年を迎える近畿大学。「攻めの広報」戦略で注目を集める同大学の象徴的な取り組みが、毎年の卒業式・入学式で行われる著名人によるスピーチだ。2025年3月までに、堀江貴文氏、山中伸弥氏、安倍晋三氏、秋元康氏といった各界のトップランナーが登壇した。YouTubeで総再生回数3,800万回を超え、2025年6月には『近大スピーチ 15分で人生が変わる心に刺さる言葉』(Gakken)として書籍化された。近畿大学のブランディングの要ともいえる著名人スピーチの原点に迫る。

「大学否定派」堀江氏起用が生んだ奇跡

近畿大学
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2025年に創立100周年を迎える近畿大学は、「実学教育」を建学の精神とする総合大学だ。1925年創立の大阪専門学校と、1943年創立の大阪理工科大学を母体として統合され、1949年に近畿大学として発足した。世界初の完全養殖に成功した「近大マグロ」で知られ、近年は「攻めの広報」戦略で大きな注目を集めている。

近大スピーチの1回目は2015年に登壇した実業家の堀江貴文氏を卒業式に招いたことに始まる。堀江氏は「大学なんかいらない」と豪語する人物で、従来の大学の常識からすれば「呼んではいけない人」と見なされる可能性があった。

近畿大学に堀江氏を選定した理由についてメールで問い合わせてみたところ、近畿大学経営戦略本部広報室より以下の回答をいただいた。

「登場した瞬間に、これから社会に出る学生たちが『おっ!』と驚く人で、ビジネス経験があり、イノベーションを起こした人、大きな挫折から再起した人、そして何より、15分という短い時間の中で心に刺さる言葉を発せられる人。そう考えて、最初の年は堀江貴文さんにお願いしました」

堀江氏が卒業式で語った「未来を恐れず、過去に執着せず、今を生きろ」という15分のスピーチは、YouTubeで再生回数230万回を突破し大きな反響を呼んだ。卒業式後のブランディングにもつながったのだ。

近大スピーチのきっかけはあの伝説のスピーチだった

刊行された『近大スピーチ 15分で人生が変わる心に刺さる言葉』の「おわりに」では、同大学経営戦略本部⻑の世耕石弘氏が、「近大スピーチ」の誕生秘話を明かしている。スタンフォード大学の卒業式でスティーブ・ジョブズが行ったスピーチをYouTubeで見たときにインスピレーションを受けたそうだ。

「卒業式に著名人を呼んでスピーチをしてもらえば、これから社会に出る学生たちのためになるし、対外的にもインパクトがある。何より、私自身があのスピーチに感銘を受けたので、『伝説のスピーチの日本版を、近大でやれたらおもしろいな』と考えました。(中略)みなさん、すごい人ですけれど、共通点はどなたの人生にも浮き沈みがあること。一度だけでなく、何度も挫折を味わって、それを乗り越えて今がある。だからこそ、壇上で語られる人生観が、聞く側の心に刺さるのだと思います。』(『近大スピーチ 15分で人生が変わる心に刺さる言葉』より引用)

2025年までに登壇したのは、堀江貴文氏、山中伸弥氏、西野亮廣氏、三木谷浩史氏、安倍晋三氏、EXILE HIRO氏、秋元康氏ほか、錚々たる顔ぶれだ。

近大が式典改革として著名人のスピーチを断行した当初は、注目を集めた一方で数多くの批判も受けたそうだ。しかし今となっては肯定的に受け止められ、卒業式も入学式も、近畿大学が誇る一大イベントとして位置付けられている。

毎年、各界の第一線で活躍している著名人が登壇するのだから、世間の注目を集めないわけがない。人選のエピソードについても問い合わせてみたが、「卒業式のゲストが誰に決まったかは、学内でもごく限られた数人しか知らず、広報室の職員さえ直前まで教えてもらえません。当日ゲストが登壇するまで知らなかった年もあります」とのことだった。

次回の卒業式には一体誰が登壇するのだろうか。

8人が贈る「15分の金言」が一冊に

YouTubeで閲覧できる内容がなぜ書籍になったのか。近畿大学への取材を通じて、書籍を企画・編集した株式会社Gakkenからのコメントを紹介する。

「掲載しましたスピーカーの皆様による、個性的なそれぞれの『失敗を恐れず挑戦する方法論』は、若者に限らず、中高年にも必要なメッセージと感じ書籍化したいと考えました。幅広い世代の方に読んでいただけたらうれしいなと思っています」

書籍として世に送り出したことで、新たな層にも「近大スピーチ」の熱いメッセージが届くに違いない。近畿大学広報室の担当者も以下のようにコメントする。

「時代に合わせて刷新していかなければ、大学も生き残れません。であれば、これからも先陣を切って、新しいことに取り組む大学でありたいと思います。挑戦するまでは怖いけれど、いざやってみたらできる、そして、いつしかそれが当然のことになる。本書を、最初の一歩を踏み出すきっかけにしていただけたら幸いです」

第一線で活躍する8人が届けた言葉の数々は、卒業生や入学生だけでなく、動画を通じて全国の多くの人々に影響を与えてきた。それは単なるスピーチではなく、人生の節目に直面する私たちが、自身の経験やこれからの選択について深く考えるきっかけを与えてくれるものだ。この「15分のメッセージ」が持つ力を、ぜひ多くの人に感じ取ってもらいたい。

『近大スピーチ 15分で人生が変わる心に刺さる言葉』(Gakken)
『近大スピーチ 15分で人生が変わる心に刺さる言葉』(Gakken)

1987年奄美大島生まれ。Webメディアを中心に、書籍の著者インタビューや生成AIの活用法、中国に関するコラムなどを執筆。在外教育施設(日本人学校)の教員として、2014年からタイ・バンコクに3年、中国・深圳に5年間滞在。帰国後にライターとして活動を始める。2024年から、日本国内の小学校で講師として勤務しながら執筆を続けている。

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