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難民問題を描いた監督が語る「存在のない子供たちの声」

暮らし

「両親を訴えたい。こんな世の中に僕を産んだから」。わずか12歳で両親を相手に裁判を起こしたレバノンのスラムに住むゼイン。両親はゼインの出生届けすら出しておらず、彼や姉妹たちは学校へも行ったことがない。彼が愛する11歳の妹は初潮が来た途端、強制結婚させられてしまう……。

 貧困地域に生きるゼインの目をとおして語られる難民や移民問題を切実に描いたのは、『キャラメル』(2007年)で主演・監督を務めて2007年カンヌ国際映画祭でユース審査員賞を受賞したナディーン・ラバキー。

存在のない子供たち

©2018MoozFilms/©Fares Sokhon

 公開中の映画『存在のない子供たち』では脚本・出演・監督を務め、2018年カンヌ国際映画祭で審査員賞とエキュメニカル審査員賞をW受賞。本作のキャストはほぼ全員、不法移民や貧困地域出身者だという。

 難民条約に加入しながらも2018年に日本が難民認定した数はたったの42人(※法務省による2018年の難民認定者数等の発表をうけて―難民支援協会)と、国際社会の一員として当事者意識の薄い日本人がこの映画から得るものは非常に多い。来日したラバキー監督に難民問題や映画制作について語ってもらった。

周辺国だけが難民を引き受けている

――400万人の人口のレバノンに100万人以上のシリア難民が存在していると聞きました。難民支援がレバノンに与えている影響を教えてください。

ナディーン・ラバキー(以下、ラバキー):レバノンはとても小さな国でシリアから難民を受け入れる以前から、経済的にも社会的にも色いろな問題を抱えていました。難民による急激な人口の増加は水道や電気など公共サービスを圧迫しています。それでも、レバノンでは他者を優しく迎え入れる文化があるので、なんとかやっていこうとしています。

 けれども、シリアの難民支援はレバノンだけが背負う問題ではないはず。難民条約には世界中の国々が加入しているのに、実情は難民を受け入れていない……。シリア難民の60%を受け入れているレバノンのように、シリアの周辺国だけが責任を引き受けているんです。

 実際にヨルダンの人口の14人に1人はシリア難民ですし、トルコでは350万人以上ものシリア難民を引き受けています。決して豊かとは言えないこういった国では、汚水にまみれた不衛生な環境の中で、水、食べ物や電気も不足し、寒さに凍えて死んでしまう難民も少なくないんですよ。

“存在のない子供”のまま死んでしまう

存在のない子供たち

©2018MoozFilms/©Fares Sokhon

――本作にみる子供たちの様子に胸がしめつけられました。

ラバキー:難民の子供たちの多くはお腹を空かせていて学校にも行けず、重い荷物を担いで肉体労働に従事しています。とにかく、現在の難民支援のシステムは機能しておらず、子供たちは出生届けもされていない場合もあり、生まれても“存在のない子供たち”のまま、些細な病気や事故で死んでしまう。

 システムの一番の被害者である子供たちの“声”を届けたくて、私はこの作品を撮りました。一体、ヒューマニティはどこへ行ってしまったんでしょう?

――そういった子供たちは自分たちの毎日をどのように感じているのでしょうか?

ラバキー:彼らにとって、飢えたり、ネグレクトされたり、虐待を受けたりすることは“あたり前の生活”で、「人生は最悪。でもこれが人生なんだ」と思っているようです。

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