元カリスマホストが語る「相手をモチベートする最高の褒め方」
井上:その後、彼は自分の店の女の子を連れて、僕が働いているお店に遊びに来るようになりました。でも彼は女の子たちにいつも呼び捨てにされていて、「従業員に舐められているな、尊敬されていないな」と心の底で軽んじていました。
さらにその後、また一緒にホストとして働き始めたときのことです。みんなで彼も交えてゲーム対決することになりました。僕は負けることが格好悪いと思い、絶対に勝とうと頑張るのですが、彼はそんな意識が全然ない。負けて罰ゲームでみんなからボールをぶつけられて「痛ーい!」って騒いだりして。
それを見て「こいつ、能力ないな、ホンマにアホや」とか思っていました。そんなことを何度か繰り返すうちに、あるとき、時間がとまったかのような衝撃的な出来事がありました。ふと彼の周りを見ていると、そこには常に人が集まってて、笑顔で溢れてる。一方の僕の周りはというと、いつの間にか誰もいなくなっていた……。
――自分と真反対のところにモテるためのヒントを見出したということですね。
井上:それから僕は彼に勝手に弟子入りしました。本人には言ってないんですけどね(笑)。表情とか振る舞いとか、歩き方とかを観察するようになって、彼の両親にまで会ったりして、どうしたらあんなふうに育つんだろうって、勉強しましたね。それで分かったのが、肩の力を抜いたり、笑顔を見せることで皆をリラックスさせるということでした。
本当の強さは、凄いことをアピールすることじゃない。これからの時代、人を動かすのは彼のような人間。人を動かすリーダーであり、モテる男子だということを確信しました。
流行の漫画から学べる“理想のリーダー像”
――今のホストは昔のような荒々しさはなくなったという意見を聞きます。暴力的な発言がパワハラとして糾弾される現代の風潮と関連があるのでしょうか。
井上:僕はいつもリーダーシップというものは、流行の漫画から学べると思ってます。昔は『巨人の星』とか『アタックNo.1』のようなスポ根漫画や、『北斗の拳』とかが流行りましたよね。
これらの作品で共通するのは、主人公が劇的に強い。それと物語の中で描かれる師弟関係です。師匠や兄弟子から厳しく扱われながらも一生懸命頑張る。なかなか認めてもらえないけど、何とか食いついてくる。仕事においても、そういう間柄を築くのがリーダーシップのあるべき姿だとされてきました。
それから時代が下っていくと『キン肉マン』や『ドラゴンボール』みたいな作品が出てきて、決定打は『ONE PIECE』ですよね。これはどういうことかというと、ヨコの関係なんですよ。特徴は主人公がちょっと抜けてるけど一本筋を通した人物である。そして能力でいうと、周りのヤツのほうが強いという。その時代に流行っている漫画は、人々が求めてる人物像であったり、リーダー像を表しているんですよね。
僕自身もマネージメントの手法を変えました。今までは実力で正しさを証明して、「俺はナンバーワンだから、お前らも同じようにやれ」って、どついたりもしてましたね。
これからは自分が強くあるよりも、優秀な人間を周りに置くことだと思います。リーダーが上からものを言うより、部下の自発性を刺激して力を引き出す。トップに立つ人間は決して凄い人じゃない、自分たちと同じ人間。だから自分たちが強くならなければないというような気持ちを、いかに自ずと持ってもらうかにシフトしました。
時流を表しているのが流行りの漫画ならば、それを紐解くことでマネージメントも変えることができます。これはどの業界にもいえることです。
――男性の部下・後輩への指導のほか、女性にも仕事として接することが多々あると思います。井上さんは性別という面で、相手への接し方で意識していることはありますか?
井上:男性に関しては、とにかく毎月表彰式をやっています。「お前、すげえなぁ」って結果を褒めて、やる気になってもらう。それで「日本のために」とか「シェアナンバーワン」と言って奮い立たせます。目標にモチベーションのリソースを置くという。
女性に関しては、目標を「半径2メートル」におくように考えてます。自分の会社では女性のみで広報部を設けてるんですけど、彼女らには「シェアナンバーワン」「日本一」とは言わずに、「この仕事終わったらご飯行こうよ」とか、「今日デートやろ、早く終わらせて行きなよ」って。とにかく身近なところにモチベーションのリソースを置きます。
女性に対しては、結果ではなくて過程(プロセス)を褒める。「チラシの反響がすごかったね」ではなくて、「これ作るためにずっと残ってくれてたね」というように。男性へは結果を賞賛すること、女性へは過程への共感でモチベートする。男女それぞれにマネージメント手法を意識的に変えてますね。