フリーランスに一番必要な能力は「痛覚のニブさ」だ――人気コラムニストの「仕事論」
ライターとして営業をしたことはない
――小田嶋さんって、ライターとして営業したこととかはあるんですか?
小田嶋:いや、ないですね。実はライターの仕事って、編集者から「書いてください」って言ってもらえる立場でないと、お互いやりにくいものなんですよ。
こっちから「何か仕事ありませんか」ってお願いして書かせてもらうことも、できなくはないのかもしれない。でも、編集者さんって書き手を探しているケースが多いから、「お、この人、面白いぞ」って自分で発見したい人たちだと思うんですね。
――あまり、こっちからお願いして仕事をするのは、よくないと。
小田嶋:変な上下関係みたいなものも生まれてしまうし。やることは同じだとしても、編集者さんが発注して、ライターが受注してっていう関係のほうが、お互い自然にふるまえると思っています。
してみると、あれこれ営業をするよりも、知り合った編集者さんと関係を悪くしないように気を配ることのほうが重要なわけです。
若手は「二度とお前なんかに発注するか」と思っている
――新規開拓よりも、今の知り合いを大事にするということですかね?
小田嶋:以前、中川淳一郎さんが言っていたことで確かにそうだなと思った話なんですが、編集者として仕事を発注していると、若い優秀なライターのなかに、異様に偉そうなやつがいる。しばらくは頭を下げて一緒に仕事をしておくけど、心のなかでは「二度とお前なんかに発注するかと思っている」と。
で、そういう人たちは5年から10年経つと、たいていの場合まったく仕事がなくなっていると。だから「いい気になるな」と、そんな話でした。
――すぐに切られるわけじゃないんですね。
小田嶋:そう。時間差で仕事がなくなる。いまの生意気が5年後にブーメランで返ってくる。この歳になって振り返ると、確かにそういう態度って見られていた気はします。フリーランスってサラリーマンに比べて自由に生きているように見えるけど、実は逆だったりします。サラリーマンって、取引先だとか上司だとか、頭を下げなきゃいけない相手にだけ下げておけば、あとは適当にやっていてもいいわけですよ。
でも、フリーランスの人間の場合、たとえ相手が下っ端のADでも編集の見習いでも、カメラマンのアシスタントでも、全方位的にきちんと頭を下げておいたほうがいいわけです。そういう人間に対して横柄な口をきいたりすると、彼らは意外とよく覚えている。しかもそのうち偉くなって、というのはよくある話なんです。だからフリーランスの人間は万人に対して腰が低くないといけない。