<第7回>商品世界を覆う紙幣の海、そして救世主2人が――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
<この物語は岩井克人の『貨幣論』が、もし『トイ・ストーリー』だったら? という仮定のもとに書き進められています>
【第7回】商品世界を覆う紙幣の海、そして救世主としてあらわれたアダム・スミスと、見えざる手!?
<登場人物>
リンネル:服の素材に使われる亜麻布のことで、英語で言うとリネン。
上着:新品の1着の上着。
お茶:美味しいお茶。
コーヒー:淹れたてのコーヒー。
見えざる手:市場を操作する手。その姿は見えない。
<前回までのあらすじ>
穴からやってきた「金」はやがて王の地位がゆらぎ、そのかわりの紙幣が刷られ始めた。商品たちは自分の価値を値上げし始め、それと同時に紙幣も大量に流通するようになる。そして、紙幣は商品世界を飲み込み、沈めようとしていた!
夢のお告げで「方舟」を作っていたお茶は、リンネルと一緒に船に乗り込み逃げるのだった。
止まれ、インフレーション! 起これ、価格調整!
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壱万円という数字が印刷されている一枚の紙幣をながめてみよう。それは、もちろん、日本中どこでも一万円の価値をもつ紙幣である。だが、今度は、その一万円札を貨幣としてではなくたんなるモノとしてながめてみよう。そうすると、その立派な印刷にもかかわらず、それ自体としてはなんの価値ももたない一枚のみすぼらしい紙切れとして立ちあらわれてくるはずである(岩井克人『貨幣論』ちくま学芸文庫、百九十一頁)
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目の前で濁流が起こり、船が大きく揺れています。波を起こしているのは紙幣、紙幣、紙幣。膨大な数の紙幣でした。リンネルとお茶は身体が投げ出されないように、船の柱へ必死につかまっていました。
リンネル「大変なことになってしまったね」
お茶「うん……もうダメかもしれないね」
?「はたしてそうかな?」
リンネル「誰!?」
アダム・スミス……イギリスの経済学者。古典派経済学の創始者とされる。市場は「(神の)見えざる手」によって調整されると提唱した。主な著書に『国富論』『道徳感情論』。
アダム・スミス「アダム・スミスさ」
いつの間にそこへいたのか、リンネルの横にアダム・スミスと名乗る男が立っていました。
お茶「この人、船を作り始めたときからずっといるんだ」
アダム・スミス「はっはっは、インフレは大変だねえ」
リンネル「インフレ?」
アダム・スミス「そう、インフレーション。物価がどんどん高くなっていくのがインフレだよ」
リンネル「そうか、だから紙幣の量も多いんだね」
アダム・スミス「まぁ、いずれおさまるけどね」
リンネル「どうして分かるの?」
アダム・スミス「見えざる手が調整するからさ」
リンネル「?」
アダム・スミス「ふっふっふ……」