クレームを装った暴力に屈しない。専門家が語る「カスハラ」に遭った時の心得
「カスハラ」という言葉を耳にした経験はあるだろうか。「カスハラ」とは、カスタマーハラスメントの略語で、クレームを言いながら相手を侮辱する行為などを意味する。
各種の実態調査によると、クレームを言った経験のある人は年齢の高い世代に多いらしい。そうなると逆に、bizSPA!フレッシュ読者の若い世代は、クレームを「言う」より「言われる」経験の方が多いと考えられる。
言われる回数が多くなれば自然に、クレームを装った「カスハラ」に遭遇するケースも多くなる。万が一「カスハラ」に遭遇した場合、黙って受け入れなくていい。行き過ぎた「カスハラ」は犯罪行為になる可能性もあるからだ。
そこで今回は、一般社団法人日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要氏に「カスハラ」の実態を語ってもらった(以下、村嵜氏寄稿)。
「カスハラ」で逮捕者が出た事例も
SNS(会員制交流サイト)で「カスハラ」が話題になるたびに「カスによるハラスメントと思っていた」などのコメントが散見される。筆者から見ればまだまだ、言葉の意味が浸透していない印象がある。
「カスハラ」は「クレーム」と違う。クレーム自体は悪ではない。感情的になり、クレームを言いながら相手を侮辱すると、その瞬間から「カスハラ」になる。
行き過ぎたカスハラは犯罪・違法行為になる。例えば、名誉毀損罪・威力業務妨害・侮辱罪・脅迫罪・傷害罪などに該当する可能性がある。
現に、逮捕されたケースもある。犯罪を取り締まる側の警察官も「カスハラ」被害に遭うケースが相次いでいるため、福岡県警が今年の5月、警察組織として全国初のカスタマーハラスメント指針を定めて運用に乗り出した。
同年の6月には、正当な理由なく警察署に居座り続けた男の行為を「カスハラ」と認定し、指針運用後で初めて逮捕につながった。
厚生労働省の「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」も、近年の社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷評価表を見直し、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆる、カスタマーハラスメント)を、精神障害の労災認定の基準に関する報告書に追加している。
「カスハラ」を国も、社会問題として認識し、対策を進めているのだ。
今の時代、カスタマーハラスメント指針を定めている企業も増えている。クレームではなく「カスハラ」、お客ではなく犯罪者と判断できる場合、クレーム対応を拒否するケースも出てくるはずだ。
客の立場を利用して店舗スタッフや取引先に対し侮辱発言や性的な言動、過大な要求をするハラスメントは、黙って受け入れてはいけない問題なのだ。
「カスハラ」被害が原因で退職する人も
クレームと「カスハラ」の意味を理解したところで事例を見ていく。
対価を支払い、商品やサービスの提供を受けた際に、正当な根拠を基に状況を指摘し原状回復を目指す行為をクレームと呼ぶ。しかし、以下のような行為は、そのクレームを逸脱していると考えられる。
×現金を普段持ち歩いていないと思われる若い世代の客が、現金でしか飲食代を支払えないお店と知った途端に「今どき、アプリ決済もカード決済もできないのかよ」と詰め寄るように言ってきた(30代・飲食業)
×乗客から気に入られたのか根掘り葉掘り、自分が乗って仕事をしているフライトスケジュールを聞かれた。軽くかわすと「●●さんは客を選んでいるのか。こっちは乗ってやってるんだぞ」と態度が変わり暴言を吐かれた(20代・客室乗務員)
×酔っ払いの乗客に、タクシーの運転手をするきっかけを聞かれたので、これまで経験した仕事の話をすると「●●さん、めちゃくちゃ落ちこぼれだね」などと急に侮辱され、連れの乗客と笑われた(60代・運転手)
クレームを言った結果、サービス提供側にとっての再発防止となり、サービスの質が向上する大きなきっかけになれば、その言動はクレームだ。
しかし、その言い方に、冷静さを欠いた余計な言葉が含まれていれば「カスハラ」になる。「相手を思って言ってやってるんだ」という気持ちの有無は関係ない。
「カスハラ」被害に遭っている人は、加害者が思っている以上に精神的ダメージを受けている。「カスハラ」被害が原因で退職する人も居るくらいだ。
クレームを装った「カスハラ」を受けたら泣き寝入りする必要はない。毅然とした態度で、度を過ぎた行動をたしなめ、過剰なカスハラが続く場合は、警察に届け出たり、訴えたりするなど強い行動に出ても構わない問題だからだ。
クレームを装った「パワハラ」を受ける可能性の人は頭に入れておきたい。
[文・村嵜要]