沖縄県民が誇るアイス「ブルーシール」。地元に軸足を置いたスタンスを崩さない独自のマーケティングとは?
顧客を待つのではなく、ブランド自ら会いに行く
さらに一風変わっているのが「ブルーシールのバス停」を作ったこと。
「マーケティングを考える際、いかにお客様との接点を作れるかどうかが大事になります。バスの利用者やバス停付近を通る人、道路を走るドライバーなど、多くの人にブルーシールを認知してもらうには、一定の効果が期待できると考えています」(山本氏)
そして、ブルーシールの真骨頂と言えるのが地域に根ざした「ネイティブマーケティング」である。
沖縄の学校の卒業式は卒業生にお菓子の首飾りを送るなど、独特の文化があるが、人生の門出となるハレの日を祝うべく、ブルーシールのキッチンカーを出店して学生にアイスを振舞ったこともあるそうだ。
また、ブルーシールの店舗には足を運べない老人ホームに入居する高齢者に向けても、キッチンカーで訪問してアイスを届けている。
「顧客を待つのではなく、ブランド自ら会いに行く」
顧客とのタッチポイントを増やすことができ、さらにはブルーシールのブランド価値向上にもつながるわけだ。
そのほか、ブルーシールのTシャツやステッカー、ショッピングバッグ、バスタオルなどのオリジナルグッズも、ブランドの想起に貢献していると言えよう。
不動のフレーバーは沖縄ならではの「塩ちんすこう」
現在、ブルーシールには常時20種以上のフレーバーが用意されているが、不動の人気はどの味なのだろうか。
「フレーバーの中で一番選ばれているのは『塩ちんすこう』、その次に人気が高いのはブルーウェーブです。どちらもオリジナルフレーバーであり、ブルーシールでしか食べられないのが人気の理由となっています。その一方で、どのフレーバーも植物油脂を原料にした植物由来のアイスならではの濃厚かつさっばりした味わいを楽しめるため、気になったフレーバーがあればぜひ試してもらいたいですね」
コロナ禍では近畿や中部、首都圏などの県外出店も強化した。
その狙いについて、山本氏は「観光客の増減に左右されなくても、利益を出せるビジネスモデルに転換したかったから」だと述べる。
「コロナ禍でお客様が沖縄に来れないなら、ブランドから近づいていこうと考えて出店強化をしてきました。この3年間で、沖縄県外の売上規模は全体の約3割に成長し、既存の“観光客頼み”だった利益構造からの脱却を図ったんです。しかし、県外での販売は継続するものの、現時点では生産能力の問題などもあり、拡大路線は考えていません。ブランドを大切にするがゆえに、先にアセット(経営資源)が欲しいんですよ。生産工場をリニューアルし、生産能力の向上が見えてきた段階で、次の一手を打つかどうかは判断する予定です」
まもなく迎える第2創業期。次なるブルーシールの成長を目指す
今後の展望として見据えているのは「ブルーシール第2創業期の準備」だと山本氏は語る。
リニューアル工事を進めている本社と本店は来年7月に完成予定で、ブルーシールの歴史に新たな1ページが刻まれる重要な局面になっているという。
「本社と本店が今の地に建って60年、本格的な建て替えを行い、大きな設備投資を行うことで、ブルーシールのさらなる成長につなげられるようにしたい。建て替え工事に伴う『ブルーシール 牧港本店』の最終営業日には、しばしの別れを惜しむために約4,000名ものお客様が訪れ、1日に250万円を売り上げるほどでした。一時は店舗前の交通渋滞で警察が駆け付けることになるほどでしたが、それだけ期待されていると感じていて。ブルーシールの名に恥じない、生まれ変わった本社と本店をお見せできるよう、来年に向けて準備していきたいと思います」
ブルーシールが本社を構える沖縄県浦添市のふるさと納税には、毎年「ブルーシールギフト」が出品されており、その寄付額は4億円に上るという。
ブルーシールを抜きにして、沖縄は語れない。
そう思えることが多いのに、あらためて気づくきっかけになった。
<取材・文・撮影/古田島大介>
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