経済不況のまま値上げが相次ぐ日本。“危険なインフレ”が招く「深刻な状態」とは
2種類のインフレをイチから解説
そもそも、インフレがどういった現象か説明できない人も多いのではないだろうか。松尾氏にイチから解説してもらおう。
「普通“インフレ”と言えば、景気が加熱した時に起こるもの。所得が高く、企業もたくさんお金を借りて設備投資するため、財やサービスを買おうとする力、つまり“需要”が盛り上がります。その結果、国全体の財やサービスの供給能力を上回って生産が追いつかなくなり、いろいろな財やサービスの価格が基本的にどれも値上がりするのです。
このようなインフレは“ディマンド・プル・インフレ(需要が引っ張るインフレ)”と言います。ディマンド・プル・インフレ時、財やサービスの価格だけではなく、賃金も上昇するため、私たちの生活は豊かになったケースが多かったです」
ディマンド・プル・インフレは好景気の状態を示すものではあるが、残念ながら今の日本はまた違うインフレにあるという。
「インフレ=好景気」ではない
「現在、原油価格の上昇に伴い燃料コストもかさむようになりました。石油はプラスチックなどさまざまな原料になるため、いろいろな原材料のコスト増を引き起こす。穀物もいろいろな食品の原料になったり、畜産業の肥料になったりしますから、やはりコストがかさみます。
ですが、コストが上がっても普通に利益を上乗せして売値が設定できればいいのですけど、残念ながら日本の実質賃金は30年近くほぼ上がっていません。そして、コロナ不況で落ちた雇用も回復せず、財やサービスを消費する力は上がっておらず、コスト増の影響によって値上げしても、国民の懐が厳しいため消費は伸びない。
そのため、売値を思うようには上げられず、多くの業者は利益が圧迫され、ディマンド・プル・インフレ時のように従業員の賃金を上げる余裕なんてありません。このコスト増などによって消費品は値上げするインフレを、“コスト・プッシュ・インフレ(費用が押し上げるインフレ)”と呼びます」
このようにインフレには2種類あり、安易に「インフレ=好景気」と覚えてしまうと、ニュースを読み間違えるかもしれない。インフレにもさまざまなパターンがあることは知っておきたい。