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経済不況のまま値上げが相次ぐ日本。“危険なインフレ”が招く「深刻な状態」とは

ビジネス

経済回復が全く進んでいない日本

松尾匡氏

松尾匡氏

 しかし、食料品をはじめとした日用品のインフレの原因は、燃料や穀物の価格高騰だけではなく、「円安の影響も大きい」と話す。

「アメリカが巨額のコロナ対策でめざましく経済回復するなど、諸外国では経済回復に成功しています。そんななか、日本だけがコロナ対策予算を30兆円も使い残すなどの失策で、経済回復は全く進んでいません。相対的に日本から海外への資金流出が起き、円安進行したことも輸入コストの増加をもたらしました。

 諸外国でも同様ですが、特にアメリカは景気が加熱気味で、日本とは比べ物にならないほどインフレが進行しています。アメリカの場合、人手不足による賃上げも見られ、ディマンド・プル・インフレの性格が強いです。もちろん、日本同様、原油や穀物の価格上昇によるコスト・プッシュ・インフレの側面もありますが、総需要の拡大が先行したディマンド・プル・インフレ寄りのインフレと言えます」

円安もインフレを後押し

「いずれにせよ、総需要の過熱がインフレの原因なので、この場合、『中央銀行が金利を上げてお金を借りにくくして総需要を押さえ込む』というのが定石です。すると、世界的には、少しでも有利にお金を運用するため、金利の高い国にお金が移動します。

 そうなると、不況対策で超低金利が不可欠の日本から金利が上がっているアメリカに資金が流れ、円を売ってドルに換えるために円安になります。2021年秋、アメリカ議会で共和党が政府債務の上限を引き上げる法案の成立に抵抗して債務不履行危機になって、アメリカの長期金利が急上昇したときも、見事に急激なドル高・円安になったことからも明らかな鉄壁の法則です」

 そして、「円安になれば、ドル表示では同じ値段でも円表示になれば高くなるため、当然輸入品は値上がります」と続け、日本の景気回復の遅れが、コスト・プッシュ・インフレを招いていると示す。

 日本のインフレ状態は決して喜ぶべきではないことがわかった。暮らしに必要なモノの値上げは徐々に加速していくかもしれない。

<取材・文/望月悠木 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>

【松尾 匡】
経済学博士。1964年石川県生まれ。神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程修了。久留米大学経済学部教授を経て、2008年立命館大学経済学部教授。著書に『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店)、『「反緊縮!」宣言』『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』(ともに共著、亜紀書房)、『新しい左翼入門』(講談社現代新書)等がある

フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている
Twitter:@mochizukiyuuki

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