中国籍の28歳アーティストが明かすNYの衝撃「アイデンティティが崩れた」
自分のアイデンティティが崩れた
――グラフィックデザイナーの仕事と、日本の仕事のバランスはどう両立してますか?仕事にコロナの影響は?
チョーヒカル:職場が100%テレワークになったので、ずっと家で仕事しています。コロナが始まったばかりの2020年はアジア人に対するヘイトとか、そういう瞬間を目撃することも多くて、ニューヨークっぽいなと思いました。オミクロンの感染も一時期すごく広まりましたが、今は恐怖感が薄れて、外出している人も増えていますね。
――本書では人種差別についての話もありますが、チョーさん自身がニューヨークで差別を感じることは?
チョーヒカル:もちろん、ニューヨークも人種差別の問題はすごく色濃いです。けど、中国籍で、でも日本生まれ育ち、今はアメリカに住んでいるみたいなちょっと複雑な文化背景を持った自分みたいな人間が、普通によくいるんですよね。
私は「自分は中国人」というアイデンティティがすごく強かったんです。友人にもそう言われてきたし、書類でもずっと「中国人」だって明記されて違うものとして扱われてきたから。でもニューヨークで中国出身の友達と話していても、その人が話す中国のことが全然分からなくて。今考えると当たり前だけど、むしろ「日本のこういうものが好き 」みたいな話のほうがちゃんと答えられたんです。
それで「私は日本人ではないけど、日本の人だ」って初めて感じたんです。自分のアイデンティティだと思っていたものが全部グラグラになって、嬉しいとか、悲しいとも違った、ショックな出来事でした。
スーパーで「コロナ野郎」と唾かけられる
――日米で差別の違いはありましたか?
チョーヒカル:「知らないものに対する恐怖」から出てくるのが差別というのは日本も、アメリカも変わらないと思います。コロナ初期は、横浜の中華街でも脅迫文が出回ったそうですが、それ以外では日本だと差別意識がちょっとした視線や言い回しに表れることが多い気がします。
でも、アメリカはアジア人が襲われたり、刺されたりするというか、もっと直接的に差別が表れますね。私もスーパーマーケットに行ったら「コロナ野郎」って唾かけられました。おどろきじゃないですか(笑)。それでも、差別に対してのディスカッションはニューヨークの方がよっぽど進んでいます。日本では差別について話すこと自体タブー視されているというか、みんな差別があることを直視したがらないから話も進まない。
――本書でも「自分の個性(意見)を出すことの大事さ」が述べられていますが、ニューヨークはなおさらそうしないと潰れてしまいそうな気がします。
チョーヒカル:潰れるかわからないですが、意思表示をしないと何も得られない街だなと思います。日本みたいに「行間を読む」文化をやってもダメで、何か欲しいものがあったらはっきり言わないと、ですね。イヤなことも、大きな声で「イヤです」と言わないとやめてもらえないです。