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キリンビールがトップに返り咲いたCM戦略。タモリが「うまい」しか言わないわけ

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会社全体の構成比率を変えた「本麒麟」

キリンビール構成比率推移

キリンビール構成比率推移 ※市場データ・販売概況より

 キリンビールは時代の流れを読み、商品開発に邁進しました。2001年に洋酒メーカーで子会社のキリンディスティラリー(当時のキリン・シーグラム)が開発した「氷結」がヒット。2006年に缶チューハイ市場のシェア4割を獲得するまでに成長します。1998年に販売を開始した発泡酒「麒麟淡麗」は発泡酒売上のトップの座を死守。

 糖質を抑えた「淡麗グリーンラベル」、糖質ゼロの「淡麗プラチナダブル」を次々と開発し、消費者のニーズに応えています。特に「淡麗グリーンラベル」は2021年1月から9月までで販売数が前年の103%と、人気の商品です。

 そしてスマッシュヒットとなったのが「本麒麟」です。キリンビールの数量の推移をみると、2018年から新ジャンルの構成比率が全体の41%となり、ビールを上回りました。「本麒麟」が販売を開始したのが2018年3月。この商品は会社全体の構成比率を変化させるほどのものでした。

第3のビールにはジレンマが

 キリンビール2018年12月期の売上収益は前期比3.3%増の6681億円。2019年12月期は前期比2.1%増の6819億円となりました。2期連続で売上収益を落としていたその前までとは明らかに潮目が変化しています。

 ヒットの裏には巧みなマーケティング戦略があります。その立役者となったのが、消費財大手P&Gから移籍し、マーケティング部長となった山形光晴氏です。キリンビールには「のどごし生」というヒット商品がありましたが、サントリーの新ジャンル「金麦」など他社との激しいシェア争いを続けていました。

 山形氏はP&G流の徹底的な顧客主義に立ち返ってアンケート調査を実施し、本物のビールのように美味しく飲める商品が欲しいというニーズをつかみます。この考え方は当たり前のように思えますが、ビール各社は第3のビールの打ち出し方に工夫を凝らしています。

 これは、第3のビールが本物のビールに近づくことができないというジレンマがあるためです。つまり、マーケティング側から見ると、「ビールは高いから第3のビールを(しょうがないから)買う」という心理を極力与えたくないのです。それならばどうするか。その解決策のひとつが競合のサントリー「金麦」に表れています。

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