豊作だった「2021年の邦画」4選。役所広司、長澤まさみら熱演の傑作も
2)『あのこは貴族』:女性同士の連帯と刹那の邂逅
東京の高級住宅地で箱入り娘として育てられた華子(門脇麦)。大学進学で富山から上京して東京で働く美紀(水原希子)。どちらも現在は東京で暮らしながら、生きてきた環境が全く異なるふたりが束の間の邂逅を果たす。
2020年の話題作『パラサイト 半地下の家族』は異なる階層間の確執をダイナミックに描いた素晴らしい映画だったが、本作『あのこは貴族』もまた異なる階層間に生きる人々についての物語である。
しかし、そこに“差”はあっても、映画が彼女たちを過度に“分断”して描くことはない。華子と美紀は「好きな男性が同じ」という最低の出会い方をしてしまうにも関わらず、対立することがないのだ。
「ずっと同じ世界にいるしかない」
美紀のほうにかなり近い、地方都市の一般家庭で生まれ育った筆者などにとっては、まず華子のような人物の生きる環境を垣間見れることが新鮮で楽しかった。そのうえで驚くのは、華子と美紀は明らかに佇まいが違う人物で、明らかに感性が異なるけれど、「似ている部分もある」ということだった。
「そっちの世界とうちの地元ってなんか似てるね」とある瞬間に美紀が言葉にする。それは確かで、「ずっと同じ世界にいるしかない」という点で同じ運命を背負っているのだ。
階層が再生産され、内に閉じるしかない世界にあって、それでも出会ってしまったふたりはどう影響を及ぼし合うのか。ふたつの空間が溶け合った豊かな時間の流れを感じてほしい。