消えゆく「ビン牛乳」。森永乳業に、ビンの宅配をやめないワケを聞いた
レトロな日本文化がまた失われつつある。2021年9月、福島県の酪王乳業が全6種類あったビン牛乳の製造を終了した。製造ラインの老朽化や販売不振が原因で、親しみある味が消えるとあり、ネット上では寂しさをつぶやく意見も目立った。
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それでもなお、ビン牛乳を製造し続ける乳製品メーカーもある。1929(昭和4)年にビン詰め牛乳を販売開始し、現在は家庭やスーパー銭湯などの事業者を相手に、宅配専用のビン牛乳を提供している森永乳業だ。昔ながらの商品を、今なお届け続ける理由とは何か。同社のミルク事業マーケティング部部・瀬尾康介さんに聞いた。
ビンは60回以上利用可能!
昭和から平成初期にかけて、どこの家庭にも乳製品メーカーのロゴが描かれた牛乳の宅配ボックスが置かれていた。世代によっては給食の定番として、そして現代も銭湯の“風呂上がり”の風物詩として親しまれてきたビン牛乳だが、目にする機会は減りつつある。
2021年10月時点、全8商品のビン詰め商品を提供している森永乳業。なかでも、オーソドックスなのは「森永牛乳」。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売店向けに紙パックの牛乳も販売しているが、それぞれに違いはあるのだろうか。
「容器の扱い方が異なります。ビン牛乳に使用しているリターナブルビンは、弊社の場合、60回以上利用可能なものを採用しています。大まかな流れとして、工場で生産したビン牛乳は、まず各エリアの牛乳販売店に届けます。そこから各家庭やスーパー銭湯などへ配達され、飲み終わったビンは販売店が回収します。それを工場へ運ぶ配送トラックが回収して、工場で洗浄や殺菌を行い、キズやヒビ割れがないかを確認して再び出荷しています」
宅配市場では見かける機会もあるビン牛乳
乳製品メーカー大手がビン牛乳に参入するきっかけが、1928(昭和3)年、明治乳業は「明治の宅配」。
公式サイトによると、ビン牛乳を家庭へ届ける牛乳宅配市場でトップシェアを誇る同社の特約店は全国に約3000店舗。少子高齢化でその役割は変わりつつあり、2021年2月からは食事宅配サービス「ワタミの宅食」との連携を開始し、高齢者の“見守り役”としての役割を強化した。
ただ、一般的に味わえる機会があるかどうかは別だ。参考までに農林水産省による「令和元年度学校給食用牛乳供給事業概況」をみると、2019年の「容器包装別供給本数実績」ではいわゆる“紙パック”にあたる紙容器が全体の84.8%に対して、ビンは15.2%。学校給食に限った統計ではあるが、目にふれる機会自体は少なくなっているようだ。