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まだ妻に「専業主婦になってほしい」とか言ってるの?

コラム

「子育てを専業する」という価値観の障壁

子育て

――古くから日本にある、男性は外へ出て働き女性は家庭を守り“家族”を築くといった概念も、変化しつつあるようにみえます。橘さんの書籍は、そんな常識に一石を投じていたようにもみられるのですが、実際のところ、男女それぞれの反響はいかがでしたか?

橘:発売当初、ニュースサイトに紹介記事が掲載されたのですが、たった半日で34万PV、1000件超のコメントがついて、ほとんどは専業主婦と思われる方からのお怒りとお叱りでした。

 目立ったのは「女がそんなに稼げるはずがない」という声で、「好きで専業主婦をやっているわけじゃない」といった意見もたくさんありました。

――男性からの反響はいかがでしたか?

橘:一方で男性からは、「妻をバカにするな」といった批判はまったくありませんでした。その反応をみて感じたのは、日本の男はどこかで「妻にも働いてほしい」と思っているということです。

 家計が苦しくても、いきなり年収を何百万円も増やすことなどできません。でも共働きなら簡単に実現できるのですから。

――共働き世帯を目指す上で、男性にはなかなかみえづらい、専業主婦ならではの障壁というものはあるのでしょうか?

橘:日本において専業主婦とは「子育てを専業する」女性のことです。料理や掃除といった家事もあくまでも子育てのためで、「子育てに失敗できない」という強迫観念を抱いてしまう母親が少なくありません。

 ママ友コミュニティでは子育てで親の価値が決まり、夫からは子育ての責任を押し付けられ、誰にも相談できないというのはそうとうツラい状況だと思います。

 そもそも子供は親のいうことをききませんから、親がどんなに頑張っても子育てが成功するとはかぎりません。「努力すれば東大医学部に子ども4人を入れられる」というのは残酷なイデオロギーだと思います。

――結婚や出産、子育てといったライフステージの変化に応じて、経済的にみて女性側が被る損失というのもあるのでしょうか?

橘:出産を機に仕事を辞めてキャリアが切れると非正規でしか再就職できないというのが、日本で男女の賃金に大きな差がある理由です。日本では女性の労働力率(15歳以上の人口に占める労働力人口)がM字カーブを描いていましたが、これは子育てが一段落してから仕事に就く女性が多かったからで、他の先進国ではこんな現象はありません。

 今はM字カーブは徐々に解消されつつあるようですが、子育てをしながら働き続ける女性の多くが非正規という状況は変わっていません。これは妻を専業主婦にしている男の問題でもあって、「家計が苦しいから妻にも働いてもらおう」と気づいたときには、非正規で低賃金の仕事しか選べなくなっているのです。

地道にコツコツと“共働き”が最強

橘玲著書

橘玲氏の著書『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)

――著書の中で、女性は「共感するちからと言語能力にすぐれています」という記述がありますが、夫が妻に働いてもらう場合、どのような仕事を勧めるべきなのでしょうか?

橘:好きな仕事はひとそれぞれでしょうが、一般的には、女性が共感力と言語運用能力、男性が空間把握能力と論理数学的能力に適応しているというのは、さまざまな研究で示されています。

 今後、ブルーカラーの単純労働がAIロボットに代替されていくのは確実ですが、共感力が必要な教育や看護・介護などの“ピンクカラー”の仕事はロボットにはできません。その結果、アメリカでは女性の平均収入が男性を上回るようになりました。

――子育てしながら仕事を続けるにはどうすべきなのでしょうか?

橘:子育てをしながら会社に通うのが難しいなら、フリーエージェントとして仕事を続ける方法もあります。これからは完全成果報酬で、結果さえ出せば自宅作業で会社に来なくてもかまわないという働き方も広がっていくでしょう。

 日本の会社が子どものいる女性に冷たいのは確かで、それに絶望して会社を辞める気持ちはわかりますが、だからといって仕事までやめる必要はありません。

――最後となりますが、これから結婚を考えている、もしくは結婚生活をし始めたばかりの読者に向けてのメッセージをお願いします。

橘:「人生100年」の時代では、夫が外で働き、妻が専業主婦として子育てに専念し、定年後は年金をもらって夫婦で悠々自適というライフスタイルはもう成り立ちません。

「もっと稼げる自分になる」「投資で資産を増やす」といった方法を否定するわけではありませんが、いちばん確実なのは「長く働く」「いっしょに働く」です。生涯共働きを超える最強の人生設計はありません。

■ ■ ■ ■ ■

 2017年には共働き世帯が1188万世帯にものぼっているという統計もある。アニメ『サザエさん』に出てくるような理想の家族像もいまは昔。これからの時代は、共働きこそが“最強”であるという動きがますます加速していくようにもみられる。

【橘玲】
1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年『マネーロンダリング』でデビュー。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『永遠の旅行者』『80’s エイティーズ ある80年代の物語』などがある。「橘玲公式サイト」はこちら

<TEXT/カネコシュウヘイ>

フリーの取材記者。編集者、デザイナー。アイドルやエンタメ、サブカルが得意分野。現場主義。私立恵比寿中学、BABYMETAL、さくら学院、ハロプロ(アンジュルム、Juice=Juice、カンガル)が核。拙著『BABYMETAL追っかけ日記』(鉄人社)。Twitterは@sorao17

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