ブラック出版社を辞めて、海外でオンライン硬筆家になった女性が語る「レールのない人生」
生徒がいたから先生になれた
そうして習字を習うも、日本の書道家に比べるとまだ人に教えるレベルではないのでは、と思っていたそうだ。
「教えるからには、本格的な“書道”を教えたいと思いました。海外だから……という甘えなしで。日本の書道家の方にも胸を張って、スペインで書道を教えている、と言えるようになりたかったです。これまで25年間、習字をしてきましたが、イチから“書道”について、学び直しました」
ところが、現在はコロナの影響で教室は閉鎖。そんななかさとみさんは、とある書道家のInstagramで「オンライン硬筆」の存在を知る。その人に直接連絡を取り、子どもをメインとしたオンライン硬筆のはじめ方を伝授してもらい、すぐさまスタートさせた。
筆を使う毛筆に比べ、鉛筆やペンを使う硬筆は、オンラインで教えるのに適していたのだ。生徒のほとんどが日本にルーツを持つ子ども達ばかり。日本、スペイン、ドイツ、イギリス……世界中のあらゆる国に住む子どもが受講している。
「オンラインで硬筆を教え始めて、子どもに教えるってこんなにおもしろいんだって、どんどんハマっていきました」
そして、さとみさんのオンライン硬筆は、2020年6月に開始してから毎月のように生徒の数が増え、現在は約40人の生徒を抱えている。さらに10人もの子どもが空きを待っている状態だ。余談だが、筆者の長女もさとみさんが教える生徒のひとりである。「さとみ先生のオンライン硬筆」は、毎回笑い声が絶えず、楽しそうなクラスの様子は見ていて微笑ましい。
硬筆を通して世界を広げてほしい
最後に、今後のさとみさんのビジョンを聞いてみた。
「オンライン硬筆は、国境がないので、ぜひ子どもたち同士で文通してほしいですね。他にも、日本の流行だったり文化だったりを、硬筆を通して勉強して、子どもたちが日本に帰ったときに、日本の子どもたちになじみやすくなるお手伝いもしていきたいです。
硬筆ってオンラインではどうしても教えられる範囲に限界があるんです。カタチはきれいに書けても、筆圧などの指導はできません。なので、このオンライン硬筆で興味を持っていただいて、本格的に習いたいって子が10%でも20%でも出て、巣立っていける登竜門的な場所になったらいいなって思います。あと、子どもの夢はどんな夢であっても応援していきます」
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レールのない人生に32歳で飛び込み、何もない状態からチャンスの種をまき、収穫してきたさとみさん。「自分はできない」と思わず、できるように努力する。行く道がわからないときは、先人に聞く。「シンプルだけどなかなかできないこと」を前向きに取り組む姿勢は、全力で見習いたい。人生は一度きり。おもいっきり夢を持って生きようじゃないか。
<取材・文/早川きえ>