漫画『左ききのエレン』かっぴーが描く、多忙な元広告代理店のリアル
趣味で描いた『フェイスブックポリス』がSNSで話題になったのをきっかけに、デビューした漫画家のかっぴーさん。以降、あらゆる男性の部屋をブッタ斬っていく『おしゃ家ソムリエ おしゃ子!』、広告代理店勤務時代の出来事をもとにした『左ききのエレン』など、さまざまな話題作を世に送り出しています。
シリアスなものからギャグ漫画まで既存のジャンルにとらわれない、かっぴーさんの作風。その創作の源泉はどこにあるのか? 今回、前出『左ききのエレン』の原作版を一部掲載するとともに、かっぴーさん本人にもデビューのきっかけや、当時の苦労話などを聞いてみました。
当初は月5万円の副収入を目指した
――かっぴーさんがサラリーマンを辞めて、漫画家になった決め手はなんですか?
かっぴー:実はサラリーマンを辞めるつもりはありませんでした。それに漫画家一本でやっていこうという考えも当初はなくて。6年間勤めた広告代理店を退職し、Web制作会社に勤務しながら漫画を描いていました。
それで『フェイスブックポリス』という僕のオリジナル漫画をWebサイトで公開してみたら、思いのほか反響があってバズッたというか。それきっかけで、漫画関係の仕事をいただけるようになったんです。僕的には、このままサラリーマンとして会社勤めをするかたわら、自分の漫画で月5万円くらいの副収入を得ることができれば、めちゃくちゃ嬉しいなあと思っていました(笑)。
――そうなんですね。
かっぴー:それで2016年に『左ききのエレン』という読み切り漫画を描いたところ、コンテンツ配信サイトcakesが主催する「クリエイターコンテスト」で、特選を受賞することができました。
それでcakesに連載させてもらうことになったのですが、漫画の連載となれば、さすがにサラリーマンとの両立は難しいんじゃないかと思ってしまって。どうするべきか1人で悩んでいました。
それで勤めていた制作会社の社長に相談したら、「そんなチャンスはなかなかない。俺なら会社を辞める」と背中を押してくれて。その一言で自分的に踏ん切りがついたというか。
もしお金のことだけ考えていたら、サラリーマンと漫画家の二足のわらじで立ち回ったほうがリスクは低かったでしょう。でも自分の本当にやりたいことを仕事にできるかもしれない。これほどの幸運はないと思いました。それに相談した相手が社長でしたからね。そのまま辞める流れになってしまったというのもあります(笑)。
「えっ、僕が漫画家になれるの?」
――なるほど(笑)。
かっぴー:とはいえ、自分としては描いた漫画が数回バズった程度という認識しかありませんでした。それにもかかわらず、周りからは「今波がきてるね。このまま漫画家になっちゃいなよ」と評価してくれる人が結構いて。だから「えっ、僕が漫画家になれるの?」みたいな感じで、周囲からの評価も決め手になったと思います。
――サラリーマンを辞めて良かったことを教えてください。
かっぴー:僕はストレスフルな会社で働いていたわけではありませんけど、サラリーマンをしていたときは、混雑する通勤電車でオフィスに定時出社。業務の書類作成や取引先で苦手な人との商談。それに昼食をとる休憩時間もだいたい決まっていました。
こうしたサラリーマンが日常的に抱えるストレスから解放されたのは良かったと思います。脱サラして漫画家になってからは、人間関係や仕事のやり方など、すべて自分で決められるようになりましたから。
――逆に辛かったことは?
かっぴー:1人で仕事をするという寂しさみたいなものはありましたね。やはりずっと自宅にこもって漫画を描いているので。当初は自由な時間が増えて、自分の好きな曜日や時間帯に人と会えると思っていました。でも、僕の都合で「今日これから遊ぼうよ」と友人に連絡しても、みんな仕事が忙しいからすぐには遊んでもらえない(笑)。
1人寂しくコンビニ弁当を食べる日々が続いて病んだこともありましたが、3年前に結婚して娘ができてからは、孤独から解放されました。
漫画家の仕事はキツいときもあるけど、それはサラリーマンを辞めたことが原因でないですし、今はデメリットを感じることはほとんどありません。