「日本は一度ぶっ壊れたほうがいい」ダースレイダー×映画監督・原一男
「山本太郎に裏切られた」と言う人々
ダース:れいわ新選組は、自分で考えなきゃいけないことを気付かせてくれた。ポイントは「この当事者が喋るなら聞いてみようじゃないか」と、“人”に着目する大きな動きになったこと。それに気付けたなら、別にれいわ新選組に頼らずとも自分の中で貫いていけばいいんです。
山本太郎に裏切られたとか言うけど、そう思うならバスを乗り変えればいい。自分で歩けるでしょ? って言いたいですよね。「このバスに乗ったらあそこに連れて行ってくれる」って勝手に思い込んで「目的地が違います」って言われて勝手に怒ってるみたいな。いや、乗るか降りるか自分で選択できることに気付けたのが大事なことなんじゃないの? と。
でも、国会議員になった舩後靖彦さんや木村英子さんを応援するのは大事なことだと思っています。2人が特別な存在ではなく、当たり前にいる状況になって初めて“多様性”ということになるわけだから。
それに、僕は山本太郎という政治家がいろいろな可能性を持っていると思っているし、ずっと注目しています。参院選で2名が当選したことでれいわ新選組は政党になったけど、組織内の制度やルールが必要になると、一言で言うとつまらなくなりますよね。だけど、つまらなくさせない可能性があの参院選や『れいわ一揆』に確かに存在していたと思います。
原:あったんですよ! あったんです、本当に……。だから、こんなにもボロが出るようになっちゃったんだっていう残念な気持ちにはなりますね。
ダース:騙されたと思う人は「何に熱狂していたんだろう」「何を信じていたんだろう」「自分の役割ってなんだったんだろう」と、もう一度考えることが大切です。ただ票を投じる先が変わる程度の感動だったのか、それとも自分の思いをちゃんと国会に届けるんだって考えていたかでは全然違う。
同時に映画を見て「あの感動をもう一度」みたいなことをやってもしょうがないから、1年で変わってしまったことをちゃんと受け止めないといけないと思います。
「コスパが悪いこと」を嫌う現代人の末路は…
原:……今、話を聞いていてね、こういう議論を確か70年代にしたよなって気がしてならないんです。私は当時、全共闘の学生の人たちにいろいろ教えてもらったという思いがとても強くて、それを映画で純粋培養して作ってきたという実感を持っているんですね。なんだかダースレイダーさんと話していて、その学生と話をしているような気がしてきて、本当に不思議です。逆に言えば、当時からあんまり進んでいないんだなと。そこも含めて不思議な感じです。
ダース:(笑)。進んでいないんだと思いますよ。先送りをずっとしてきた結果、いまだに何も解決していない。
これも70年代の学生みたいな意見になっちゃいますが、空っぽな言葉を並べて何か言った気になっているだけで「もう一度中身を入れ直すべきでは?」という問いを日本はずっとサボってきている。もしかしたら原さんが生まれた1945年に民主主義をアメリカが持ってきたタイミングから、それに甘え、何も成長しないまま70年以上が過ぎてしまったのかもしれません。
原:本当そんな感じがします。まっとうに物事を考えて、まっとうに発言する人って少なくなったなって気がしているんですよね。
ダース:だってこういうことを言うと、コストパフォーマンス悪いじゃないですか。
原:コストパフォーマンスですか(笑)。
ダース:コスパが悪いことを、今みんなやらないですから。横塚さんの話でもありましたが、性や恋愛の話って、それを議論するコストに見合ったリターンがないんじゃないと考えるんだと思います。そういう、エクセル計算で済むような人生を送っているような人たちが、グニュッとした何か“情念”みたいなものを抱きようがないですよね。
AIが議論になっていますが、そういう人から順番にAIに入れ替わっていくんじゃないかと思いますけどね。じゃあ誰が残るのかって考えると、制度に乗っかっていたらまともに生きられない人とか、言葉で説明できないものを抱えている人とか、それこそ障害者を含む“他者”と呼ばれる人こそが、唯一残る可能性すらあるかもしれない。2050年になったら、今「こういう人は役に立たない」とか言ってる人たちがみんないなくなるという逆転現象が起こっていてもおかしくないと思いますよ。むしろそのほうがワクワクするし。
原:私たちは一貫してコスパの悪い作品ばかり作ってきたなと思いますね。唯一、『ゆきゆきて、神軍』だけは良かったと言えるかもしれないけど。
ダース:僕はコスパを計算しないことがスタート地点であり、コスパを考えていないものこそコストをかけて見る価値があるって気がしますよ。