元NTTデータ社員が、被災地で仕掛ける「養殖体験ツアー」がウケた訳
新型コロナウイルスの影響によるテレワーク、在宅勤務の拡大を受けて、地方移住に目を向ける人が増えている。現役リクルート社員の森成人さんは、2013年より出向先である宮城県気仙沼市で生活し、1405日間(およそ3年10か月)の仮設住宅暮らしをブログ「気仙沼出向生活」で綴っている。
本連載では森さんが被災地の生活を通じて知り合った、ローカルで活躍する若者などを紹介する。今回、取材したのは気仙沼最大手の水産・観光事業者 株式会社阿部長商店に所属する傍ら、気仙沼のコミュニティデザイン会社「合同会社moyai」の創設者の一人でもある小山弘二さん(41歳)。前回インタビューした根岸えまさんとは、また全くタイプの違う地域で活躍している(以下、森さん寄稿)。
被災地にインバウンド客が訪れるまで
2015年、私は気仙沼に地元の方々とDMO法人(Destination Marketing Organizationの略で観光庁が定める公的な側面も持つ観光まちづくり会社※以下DMO)をつくり、まちの観光化に挑んでいた。しかし、気仙沼はもともと水産業中心であり、 また被災地の傷跡もあって苦労していた。
そんな時、小山さんに出会った。気仙沼で水産業、宿泊・飲食店などの観光業を展開している株式会社阿部長商店に所属している彼は「インバウンド推進をしていきたい」と話してくれた。
気仙沼は世界でも有数の港町でカツオやメカジキ、牡蠣など水産資源が豊富。また、リアス式海岸沿いには景観の良い場所もたくさんあり、遠洋漁業の拠点としての歴史的な気質もあって、町外から訪れる人に対してウエルカムなところがある。
ポテンシャル満載の気仙沼だが、世界中から人を呼べる観光地化を実現するにはどうしたらいいか? そんな悩みを持つ私に、小山さんは面白いアイディアを授けてくれた。
官民協同のインバウンド開拓事業へ
「森さんたちには、DMOを通じて開発した気仙沼の資源を生かした体験商品や、行政や地域一円の民間事業者のネットワークがある。僕たちの会社には水産業を通じた世界中のお取引先との民間ネットワークがある。この2つを通じて、海外の観光エージェントに気仙沼を紹介するのはどうでしょうか?」
確かに2人のネットワークと合わせれば、インバウンド客を誘致できるかもしれない。でも具体的にどうやって――?
小山さんたちの顧客ネットワークを介した事前リサーチによれば、マレーシアの海外のエージェント会社が企画する日本ツアーでは漁業の現場(地元漁師との交流も含めて)を見られる内容がほとんどなく、それ自体が非日常的だという。
2つ目に、気仙沼名物のひとつである牡蠣は非常に大きく、また観光客を受け入れるための場所として「番屋(牡蠣小屋)」の存在がある。最後に、これまでに組まれている東北のインバウンドツアーは内陸が中心で海側のコンテンツが少ないということだった。