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槇原敬之逮捕で注目。精神科医が警告する「薬物報道の在り方」

暮らし

健康問題へのただしい対策の仕方

――健康問題として扱うというのは具体的にどういった対策をすることをさすのですか?

松本:感染症の例がわかりやすいかと思います。すでに感染した人はその人をケアをしつつ、感染が広がらないよう防止策も取る。

 要するに感染してしまった人たちを排除し、差別し、孤立させてしまうことのない感染防止のあり方を模索する、これが健康問題への正しい対策の仕方です。それは、ハンセン病やHIV感染症の対策で実践されてきたことです。

 ですが、日本では乱用防止が効きすぎている。それは、現在、日本の一部でも生じているような、コロナウイルスに罹患した人に対してバッシングや排除の動きが出ていますね。同じように、薬物依存症になってしまった人がスティグマタイズされてしまっています。

 これはデータにも表れています。覚醒剤取締法違反は再犯率が高く、平均年齢もどんどん上がっており、年々受刑者に占める再入所率も高まっています。つまり、覚せい剤依存症という病気が治らないまま、刑務所をいったり来たりしている人たちがいるのです。この事実をもってしても刑罰が全く効いていないことがわかります。

 また、法務省のデータをもとに我々が行った調査では、依存症の重症度が重い人ほど、刑務所に戻ってきてしまうことがわかりました。

21世紀になっても刑務所に病人がいる

防犯カメラ

松本:やはり法務省のデータを用いた別の研究では、薬物の問題とは別に発達障害やうつ病、統合失調症などメンタルヘルスの問題を抱えている方も、再び薬物に手を出して刑務所に戻ってしまいやすいことがわかっています。ですから、依存症も重症で他にも治療が必要な病気を抱えている人ほど刑務所に入ってきてしまっている。

 普通に考えれば、既存の方法がダメなので、他の方法を考えるべきですが、日本はそうなっていません。精神科外来は18世紀の終わりごろ、精神科医のフィリップ・ピネルが犯罪者と一緒に刑罰で症状を治そうとされていた精神障害者たちを刑務所から病院に移したのが起源とされています。

 ですが日本では21世紀になった現在でも、まだ刑務所に入っている病人がいます。正直に言うとこれが現実でしょう。

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 次回、<ストロング系、市販薬…身近な依存症。専門家が語る「最も深刻な薬は…」>に続く。

<取材・文/小林たかし 撮影/詠シルバー祐真>

【松本俊彦(まつもと としひこ)】
精神科医。国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部部長 兼 薬物依存症治療センターセンター長。医学博士。1967年生まれ。93年佐賀医科大学医学部卒業。横浜市立大学医学部附属病院などを経て、2015年より現職。近著に『薬物依存症』(ちくま新書)がある

フリーランスのライター、主にweb媒体を中心に様々な分野で執筆を手掛ける。守備範囲は広いがとりわけ、変なもの、ことに関する興味が強い。最近の目標はヘビトンボを食べてみること。

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