「好き」を仕事にしている人が、結局伸びない理由
調査の結果は意外なものに…
ところが、結果は意外なものでした。適合派の幸福度が高いのは最初だけで、1~5年の長いスパンで見た場合、両者の幸福度・年収・キャリアなどのレベルは成長派のほうが高かったからです。
研究チームは、「適合派は自分が情熱を持てる職を探すのがうまいが、実際にはどんな仕事も好きになれない面がある」と言います。
いかに好きな仕事だろうが、現実には、経費の精算や対人トラブルといった大量の面倒が起きるのは当然のことです。ここで「好きな仕事」を求める気持ちが強いと、そのぶんだけ現実の仕事に対するギャップを感じやすくなり、適合派のなかには「いまの仕事を本当に好きなのだろうか?」といった疑念が生まれます。その結果、最終的な幸福度が下がるわけです。
一方で成長派は、仕事への思い入れがないぶんだけトラブルに強い傾向があります。もともと仕事に大した期待を持たないため、小さなトラブルが起きても「仕事とはこんなものだ」と思うことができるからです。
好きを仕事にするとスキルも伸びない
オックスフォード大学が行った別の研究では「好きを仕事にした人ほど長続きしない」との結論も出ています。
こちらは北米の動物保護施設で働く男女にインタビューを行った調査で、研究チームは被験者の働きぶりをもとに3つのグループに分けました。
好きを仕事に派:「自分はこの仕事が大好きだ!」と感じながら仕事に取り組むタイプ
情熱派:「この仕事で社会に貢献するのだ!」と思いながら仕事に取り組むタイプ
割り切り派:「仕事は仕事」と割り切って日々の業務に取り組むタイプ
その後、全員のスキルと仕事の継続率を確かめたところ、もっとも優秀だったのは「割り切り派」でした。一見すれば情熱を持って仕事に取り組むほうがよさそうに思えますが、実際には「仕事は仕事」と割り切ったほうが作業の上達が速く、すぐに仕事を辞めない傾向があったわけです。
このような結果が出た理由は、先に見たミシガン州立大学の研究と同じです。
もし好きな仕事に就けて最初のうちは喜びを感じられたとしても、現実はそこまで甘くありません。どんなに好きな仕事でも、顧客のクレーム処理やサービス残業のような面倒ごとは必ず発生するものです。
すると、好きなことを仕事にしていた人ほど、「本当はこの仕事が好きではないのかもしれない……」や「本当はこの仕事に向いていないのかもしれない……」との疑念にとりつかれ、モチベーションが大きく上下するようになります。結果として、安定したスキルは身につかず、離職率も上がってしまうのです。