月額通行料1万円の長崎私道トラブル。不動産のプロの見解は
実際、私道を維持するには何円かかる?
道路の維持費を捻出したい所有者の事情は理解できるとして、維持にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか。建築士へのヒアリングなどからreaさんが独自に試算したところ、
「本件で所有者にかかる道路の維持管理費としては、“アスファルトの補修費用”、“上下水管のメンテナンス・交換”あたりが大きな項目となります(ガードレール設置や側溝に蓋を設置する工事等も市が寄付を受ける際には必要とのことですが、とりあえず現状のままで考えます)。ストリートビューで見る限りアスファルトはそこそこきれいですが、水道管の交換等はなされておらず、交換時期が近づいているであろうと推察されます。仮にアスファルトを全面張り替えるには約1000万円、水道管を全て交換すれば約1.2億円程度はかかる見込みです」
インフラの老朽化で将来的に1億円以上の費用が発生するとなると、所有者にとって頭の痛い問題であることは間違いありません。
「もちろん、いきなり全額が発生するわけではないです。アスファルト補修は10年程度で一巡し、水道管は50年に一度入れ替えるとすれば、毎年積み立てる必要のある金額は340万円となります。その他にも費用が発生するとしても、毎年400万円程度の積立が必要と見積れます。
仮にこれを住民で負担するとすれば、ニュースでは100世帯とのことでしたので、世帯当たり年間4万円、月額では約3300円となります」
将来のインフラ交換が不可欠と考えると、通行料3000円という額は不当に高いとも言い切れないようです。
「ただ実際にはこれでも高い! と突っぱねられそうな気もしますね。私道の通行料は昔に取り決めた安い金額で据え置かれている事が多く、維持費すら捻出できないケースが世間には多いと思います」
寄付を受け付けない行政の事情
当初、所有者は長崎市への寄付を申し出ており、市側が寄付を受ければ問題なかったようにも思えます。しかし、「容易に寄付を受け付ない理由がある」とreaさんは解説します。
「各自治体は私道の寄付を受ける基準があり、整備する事も要件の一つなのですが、その他にも幾つかの要件があります。長崎市は公開していませんが、一般的には私道の始点・終点が公道に接している必要があり、そうすると道路が入り組んでいるこの私道は、整備しても寄付を受け付けてもらえない可能性もあります」
さらに長崎市ならではの事情も関係するとの見方を示します。
「長崎市は地形的に坂が多く、類似状況の私道が他にも存在すると思われます。一つを認めてしまえば、他も同様の対応をせざるを得なくなります。地方中核都市のなかでは財政が厳しい長崎市は、少子高齢化も進んでいます。将来的に限られた財源の中で、私道の寄付について慎重にならざるを得ないのです」
今回の問題で生活道路を封鎖された住民は、長崎地裁に仮処分を申し立てています。司法はどのような判断をするのでしょうか。
「過去の判例では、本件同様、開発団地で私道を分譲業者が持つ場合、分譲地購入者が通行する権利を時効取得しているとした判例(名古屋地裁昭57・8・25)もあれば、時効取得はしていないという判例(東京地裁昭56・6・29)もあるので、我々にはどう転ぶか判断がつかないところです。個人的には、この私道を通らないと公道に出られないような状況で何十年か前に分譲されたのであれば、それは私道通行を前提としているので通行する権利の時効取得が認められるのでは、と思っています」
司法の判断も分かれる私道問題。解決への道は平坦ではなさそうです。
<TEXT/栗林篤>
【rea(@rea87736817)】
日本に数えるほどしかいない希少な職業、不動産鑑定士をしています。クソ物件GO2018ワールドチャンプでもあります