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ラブストーリーから階級差別を描く。インドの女性監督に聞く

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 現在公開中の映画『あなたの名前で呼べたなら』は、インドのプネーで生まれ、カリフォルニア、ニューヨーク、パリを渡り歩いたロヘナ・ゲラがインドで初めて作った長編映画で、初長編映画デビューにも関わらず、2018年のカンヌ国際映画祭でGAN基金賞を受賞した逸品だ。

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©2017 Inkpot Films Private Limited,India

 ムンバイで出会う上流階級の男性、アシュヴィンと住み込みのメイド、ラトナが繰り広げるハートウォーミングなラブストーリーと思いきや、活気のあるムンバイの街とオシャレなインテリアを背景にした物語の根底には、インドの階級差別が根強く横たわっている。

 現在ではカースト制度による差別は法律で禁止されたとはいえ、いまだ階級差別が残り、児童婚や女性への性犯罪が多発するインド。来日したロヘナ・ゲラ監督に映画制作やインドの階級社会について話を聞いた。

階級差別が残るインド

――インドの階級問題をなぜ恋愛物語として語りたかったのでしょうか?

ロヘナ・ゲラ(以下、ゲラ監督):インドに存在する階級社会に対して、小さな頃からずっと違和感を抱いていました。インドにある私の実家には、住み込みのお手伝いさんやナニー(住み込みのベビーシッター)がいたんですが、私の家族と彼らの力関係になにか腑に落ちないものを感じていました。でも、子供の頃はどうすればよいかわからなかったんです。

 やがてアメリカの大学でイデオロギーや哲学について触れ、パラマウント・ピクチャーズの文学部門で助監督や脚本家を経験しましたが、インドへ帰国すると、インドの階級社会は何ひとつ変わっていなかった……。

 インドと海外を行ったり来たりしながら「私に一体なにができるだろうか」と自問自答し続け、恋愛映画をとおしてインドの階級問題について問題提起できないかと思いつきました。なぜなら、人は恋する相手は対等に見ているから。私たちは、恋する相手の“階級”ではなく、“人間”を見ます。恋愛においては女性も、男性も平等ですよね。
 
――下層階級のラトナや彼女の女友達が、“社会の被害者”や“弱い女性”として描かれていなかった点が興味深かったです。

ゲラ監督:貧困や性差別のある難しい社会でも、女性はいつもしたたかに生きています。世界が変わるのを待ち文句を言って、泣きながら毎日を送っているわけではないですよね。どんな現実にも“幸せ”を見出し、夢をもち、笑い、日々の生活をよくするために戦っている……。そんな女性にインスピレーションを受けました。

超えられない社会的距離をビジュアル化

あなたの名前

ロヘナ・ゲラ監督 ©mitsuhiro YOSHIDA/color field

――ラトナとアシュヴィンの世界は階級によって分断されています。アシュヴィンのアパートの“廊下”は、この分断を象徴しているように思えますが。

ゲラ監督:“廊下”は物語のシーンによって、“分断”や“結びつき”を示す場所になっています。実際のアパートをリノベーションして、廊下の“スペース”を長く作った理由は、このスペースが2人の間に横たわる“距離”のメタファーだから。

 それから、2人が壁ごしにコミュニケートするシーンもあります。この“壁”も、2人が直面する“距離”のシンボルになっています。2人は同じ人間なのに、社会的に超えられない“距離”があることをビジュアルで表現したかったんです。

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