日本とは違う「海外ブラック企業」裁判。2年で35人自殺した仏企業でも
今年4月から施行された働き方改革関連法で、これまで“青天井”だった時間外労働に上限を定め、違反企業には罰則が課されることになった。世界的に見ても、日本企業は労働時間が長く、従業員が精神疾患を発症したり、過労死を招く要因となっている。
前回の記事でも紹介した、わずか2年で従業員35人が自殺したフランスの通信大手「旧フランス・テレコム」(現在の社名はオランジュ)。現在、最高経営責任者(CEO)ら経営陣に、「モラルハラスメント」の容疑を問う裁判が始まっている。
そもそもなぜ、フランスの裁判でモラル・ハラスメントが問われるのだろうか。グラディアトル法律事務所の北川雄士弁護士に聞いた。
仏法律での「モラル・ハラスメント」の定義
――フランスの法律で「モラル・ハラスメント」とは何を指すのでしょうか?
北川雄士(以下、北川):フランスの労働法では「いかなる労働者も、その権利と尊厳に損害をもたらし、その肉体的又は精神的健康を失わせ、または結果的にそうした悪化を招くようなモラル・ハラスメントを繰り返しうけることがあってはならない」と規定されています。
すなわち、フランスの法律(労働法)で、モラルハラスメントとは「労働者の権利と尊厳に損害をもたらし、その肉体的又は精神的健康を失わせ、または結果的にそうした悪化を招くようなハラスメント行為」を指すということができます。
そして、労働裁判で、モラル・ハラスメントが問われている理由としては、上記の規定に加え、被用者(労働者)の身体的健康だけにとどまらず精神的健康含めて健康予防における使用者(会社)の責任を負わせる規定が存在することから、その責任追及のためと推測されます。なお現在始まっている裁判は、刑事事件としての裁判ですね。
――GoogleやAmazonなど米大手IT企業では、社員と倉庫作業員との待遇格差をめぐって訴訟が起きています。日本とはやや焦点が異なる気がします。
北川:日本では、労働審判において「長時間労働」「残業代未払い」など賃金に関する争点と「不当解雇」「雇い止め」など雇用に関する争点が大半を占めています。