日本はなぜ、ラブホテル大国なのか?秘密は「昔の人の性生活」に
“性を楽しむこと”には大きな男女差があった
――“それなりに工夫された性愛の文化”とは?
新谷先生:従来の日本的な性が抑圧されるなかにおいても、男性は金銭的余裕があれば妾(めかけ)を持つことが認められていましたし(明治13年までは戸籍上でも妾は公認)、昭和33年の赤線廃止までは公的に売春が許された地域もありました。
とはいえ、そのような風俗店は、性愛のテクニックがある場ではなく、プロの手によってアッという間に終わらされてしまう寂しいものだったようです。
――裕福な男性なら性を謳歌できるという仕組みは、明治になってからも根本的には変わらなかったのですね。女性はどうだったのですか?
新谷先生:男性は含妾(妾をもつこと)までも許されたのに対し、既婚女性が夫以外と関係を持つことは、姦通罪として禁固刑が科されました。いわば性差のダブルスタンダードがあったと言えるでしょう。
日本とはまったく異なるフランスの性文化から学べるコト
新谷先生:時代は下って、80年代に日本の中高年管理職とその夫人を対象に行われた性愛生活の調査をまとめた『日本人の性』によると、夜の営みを「苦痛に感じていた」と答える妻が大半でした。「夫が短時間に一方的に楽しんで終わる」ような、思いやりのない性生活が一般的だったようです。
一方、私はフランスでも民俗調査の経験があるのですが、そこでは日本とはまったく違う性の楽しみ方がありました。日本のアフターファイブの過ごし方は、食事→お酒→ホテル(行為)ですが、フランスでは、レストランのディナータイムの開始が早くても20時頃。だから、仕事が終わってからレストランが開くまでに行為をしてしまう。つまり、行為→食事→お酒というリズムがあるようです。
――食事の前にコトを済ませてしまうのって、なんだか大胆!? でも、行為をした後すぐにサヨナラではなく、ディナーを共にするのってすごく性をポジティブに捉えているように思えます。それに、改めて考えてみると、お酒を飲んだ後でしかセックスしてはいけない、なんて決まりはないですものね。
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ラブホテルというと、行きずりに酔った勢いで利用したり、不倫などワケありのふたりが消えていったりと、どこか後ろ暗いイメージもあるもの。でも、普通のカップルなら、もっとポジティブに性を楽しむために利用してもいいはず。
日本には短時間でセックスをしてきた歴史が確かにあったようですが、若い我々から性の意識改革をしてみてはいかがでしょう。
<取材・文/岸澤美希>
【新谷尚紀(しんたに・たかのり)】
1948年広島県生。社会学博士(慶應義塾大学)。現在は、国立歴史民俗博物館名誉教授・国立総合研究大学院大学名誉教授。著書は『柳田民俗学の継承と発展』(吉川弘文館)など多数。