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日本で薬物をやると“一発レッドカード”。再起に向けた取り組みとは?

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 人気音楽ユニット・電気グルーヴのピエール瀧容疑者の件でも注目が集まる、薬物依存症の問題。普通のサラリーマンでも、その気になれば薬物が手に入るいま、遠い世界の出来事ではありません。

薬物

※画像はイメージです(以下、同じ)

 薬物依存症の治療法から、日本が抱える課題まで――。前回に引き続き、さまざまな依存症の治療に関わってきた精神保健福祉士・社会福祉士の大森榎本クリニック精神保健福祉部長・斉藤章佳さんに話を聞きました。

薬物以外にストレス対処法を見つけること

斉藤章佳

大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳さん(提供:ウートピ)

――前回のお話では、治療の中で「薬を止め続けるための対処法を学ぶことが重要」と仰っていましたが具体的にどんな対処法が?

斉藤:薬物に限らず依存症は何らかのストレスが要因となっていることは共通しています。薬物にはまっていく人は過去にトラウマ(外傷体験)を抱えていることが多い。虐待やいじめ、災害や事故によるPTSDなどもあるでしょう。薬物はこうした心理的な「痛み」を一時的に和らげてくれる鎮痛剤なんです。そして反復して使用していくと、条件反射の回路が出来上がりやめられなくなってしまうわけです。

 だから薬物以外に、こうしたストレスに対処する方法を個人のライフスタイルに合う形で見つけていく必要があるでしょう。一つ具体的にあげるとすれば運動がいいかと思います。

――マラソンや筋トレとか?

斉藤:そうですね。ランニングでもウォーキングでも、なんでもいいです。定期的に運動をすれば自分の体に関心が向くので、食べ物、飲み物や生活習慣にもいい影響を与えます。

 同じ動作をすることで一体感を生む協調運動もいいと思います。クリニックでは、エイサーや和太鼓、よさこいソーランなど同じ動作を仲間とともに練習しています。また、演舞する側は、定期的に近隣の老人施設に慰問に行ったりするため、そこの利用者さんから喜ばれると自己肯定感もあがり自信がつきます。シラフで人の役に立つ体験が、今日1日薬を止める力になっていきます。

 依存症の人というのは根はまじめで責任感が強い人が多いので、やりすぎてしまう人もいます。でも、薬が生きがいの暮らしよりはよっぽどいいですよね(笑)。

薬物問題を取り巻く日本の課題

――治療についてお話を伺ってきましたが、とはいっても日本は罪を犯した人の社会復帰に寛容ではないというか……。

斉藤:そこが日本の大きな課題です。背景にあるのは、違法薬物が止められないという問題を刑事司法モデル偏重で考えているということで、これは海外とは大きく異なります。薬物依存症対策の先進国では、「薬物がやめられない=疾病モデル(公衆衛生)」という共通の認識がある。オランダ、ポルトガル、台湾などの国ではハーム・リダクションという方法が採用されています。

――ハーム・リダクションとは?

斉藤:非常に簡単に言うと、薬物の自己使用そのものの是非を問うのではなく、使用によって起こる薬物依存症の治療アクセスの問題や注射器の回し打ちによるエイズ・C型肝炎の感染リスクなどの害悪を現実的に減らしていこうという考え方です。

 ハーム・リダクションを採用している国では、医療機関が新しい注射器を配布したり、覚せい剤などと効果が似ている医療用の薬物を支給していたりすると聞いたことがあります。この政策が徐々に効果を発揮して、薬物依存症者やHIV、C型肝炎患者が実際にかなり減ったという報告もあります。

 ひるがえって、日本は刑事司法モデル偏重で処遇が決まるわけですが、覚せい剤で18回も刑務所に入って「今度こそやめる」とクリニックにやってきた人もいました。そろそろ、刑務所に行くだけでは薬物を止めることができないという事実を直視するべきです。こういう“刑務所18回選手”のような事例を見ると、刑罰だけでは対処できないことは誰が見ても、一目瞭然です。

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