「#ES公開中」仕掛け人の怒り。今の就活は投資ではなく“投棄”
2019年3月1日に就職活動が解禁され、各企業が一斉に採用活動に向けて動き出した。そんななか、学生を始め就活業界の者をざわつかせ、話題になったのが、その日の朝から渋谷駅をジャックした「#ES公開中」のキャンペーン。
人気企業20社の選考を通過したエントリーシート(ES)が各所で公開・配布されるという、大胆で前代未聞のキャンペーンであった。
仕掛けたのは就活クチコミサイト「ONE CAREER」を運営するHRスタートアップの株式会社ワンキャリア。今回、ワンキャリア経営企画室の寺口浩大さんにES公開の裏側と昨今の就活市場における課題について聞いてみた。
インタビューするのは、美容健康商材を扱うD2C事業などを展開するベンチャー企業、株式会社ビーボに2018年4月入社し、企業内YouTuberとして、就活やキャリアに関する情報を日々発信している「市川と内藤」(市川航と内藤光希)。
本コーナーでは、2人が有識者や先輩に「聞きたかったけど聞けなかった」就活と働くことのリアルや裏側を聞く。
渋谷駅をジャックした「#ES公開中」の反響
市川と内藤:先日3月1日の「#ES公開中」かなり盛り上がっていましたね!
僕たちも動画の撮影で渋谷駅まで見に行ってきましたが、現場だけでなくSNS上でも「#ES公開中」が多く投稿されていました。かなり大規模なキャンペーンでしたが、実際に反響はいかがですか?
寺口浩大(以下、寺口):ありがとうございます。僕もオフィスが渋谷なので毎日近くにいたのですが、♯ES公開中のジャケットを着ていたので、多くの方から声をかけていただきました。ゲリラで人事の方がESやキャリア相談会を開かれたりもしていました。
また、意外に就活生だけでなく、社会人の方や親御さん世代の方で手に取られる方も多かったですね。「自分の子が就活始まるから教えてあげよう」と。早速面談内容や希望配属率を公開するなど企業側のアクションも見られ始めています。
市川と内藤:就活生だけでなく、これまで就活を経験した人にとってもかなり衝撃的で思い切ったキャンペーンでしたよね。
今回、キャンペーンを仕掛けた目的に“採用の透明化”をあげていましたが、就活において寺口さんがどのような課題感を持っているのかお伺いしたいと思っています。
寺口:そうですね。そもそも僕は、就活にかかわらず「仕事選びにおける意思決定のクオリティ」が高まらないのは、構造的に2つの要因があると思っていて。
1つはそもそもマーケット自体が不透明であるということと、もう1つは時代に合ったキャリア感の醸成がなされないまま、職業選択を迎えるということ。
あまりにも不透明な就活マーケットを変える
市川と内藤:1つ目は、キャンペーンの目的としてあげられていた採用の透明化の部分ですね。
寺口:はい。現代の就活マーケットは人生の大切な時間の投資先を決めるには、あまりにも不透明だと思っています。実際、学生が自分向けの確からしい情報にアクセスするにはあまりにもノイズが多いんですよね。
というのも、今学生の身近にある情報って、中央集権的に綺麗に着飾られた情報か、匿名性の高さゆえ嘘も混じっているような質の悪いクチコミのどちらかなんですよ。
就活生の多くはこんな両極端な情報の中から、人生の投資先を決めているのが現状です。
市川と内藤:そういった両極端な情報を学生が疑うこともなく、まことしやかに信じきっているのも事実ですよね。もう1つの課題、キャリア感の醸成とは……?
寺口:そもそも、仕事をするということは、価値の生産活動だと思っているんですけど、現状、社会に出る前に、消費の体験の機会のほうが生産の擬似体験機会よりも圧倒的に多いんです。
また、ビジネスモデルトレンドが変わり、コンテンツやwebサービスが無償化トレンドにあること、toCビジネスのサービサーが生産体験のように見せかけた消費体験を促しているということもあります。
ユーザはここに気づかないとどんどん「優秀な消費者」となり、生産側から遠ざかります。具体的にはソーシャルゲームやSNSはこの構造に近いですね。ゲームのレベルは、現実世界ではソーシャル・キャピタルになりにくいし。コンテンツへの感想コメントも、参加感は得られるが、議論を進めるものでなければ、突き詰めれば消費になります。
今の就活マーケットは“投資”ではなく“投棄”
寺口:だから、いざ就活をはじめる時に、「やりたいことは何ですか?」と言われてもやりたいことがない。言い換えると、やりたい「消費」はあるけど、やりたい「生産」がイメージできない。つまり、どういう「生産」が自分のやりがい、資本市場における価値証明になるのかがわからない状態になってしまうんです。
夢っておそらく2つの要素でできていて、「かっこいい(かわいい)×価値生産活動シーンを知っているもの」で。それは、なりたい姿、やりたい生産活動それぞれを広げて内省する機会がないと進化しない。
こうして、将来の夢が「ウルトラマン」あるいは「ケーキ屋さん」からほとんど進化しない状態の中、短期間で職業選択を迫られる。かつマーケットも不透明。こんな中で多くの学生が、人生の投資先を決めている状況をみると、現状の就職活動での仕事選びの多くはは、投資というより投棄に近いと思っています。
市川と内藤:学生は、働くイメージがなく、かつ情報も不確かな中で就活をしているということですね。