“消滅可能性都市”から発信する「ふたり出版社」夫婦の挑戦
「アタシ社」は、編集者ミネシンゴさん(34歳)、デザイナー三根かよこさん(32歳)の夫婦2人からなる出版社です。
神奈川県・逗子市で始まり、現在は三浦市三崎に拠点を置いています。一貫して神奈川県の三浦半島に身を置くのにはどんな理由があるのでしょうか。
前回の記事では2人が創立するまでの経緯などを聞きましたが、今回は元リクルートの2人ならではの出版社が本を売っていく方法、アタシ社と地域の関係性をうかがいました。
→インタビュー後編<愛する人と仕事をするってどんな感じ?夫婦で出版社を営む2人に聞いてみた>はこちら。
アタシ社ならではの本の売り方
――夫婦出版社ということですけど、ふたりだけで出版社を経営するメリットとデメリットは?
ミネシンゴ(以下、シンゴ):メリットとしては、自分のペースで作っていけるということですね。毎月お金を払って人を雇うとなると、人が増えただけやることが増えるし、自分以外の人に意識を向けないとなりません。
デメリットとしては発行点数に限界があることです。頑張っても年間4、5冊。あと、作ってから売っていかないとならない。出版社だけで生活していくとしたら1冊あたり3000~5000部は売る必要があるけど、人的なリソースがあれば、作れる量も営業できる量も増えますからね。バランスが難しいところです。
――実際、どのような営業をなさってるんですか。
シンゴ:新刊が出るタイミングで書店さんに営業に行ったりします。あとは仕事で地方に行くときは必ずその地域のキーとなる書店さんには行きいます。
僕らが編集している『髪とアタシ』『たたみかた』も、パッと見でどんな雑誌かわからないじゃないですか。「美容文藝誌って何?」みたいな。だからこそ説明する時間が取れて関係性が生まれるチャンスもあります。
限られた部数3000部を効率的に売っていく
――個性的な本そのものが営業のきっかけになると。
三根かよこ(以下、かよこ):ブックフェアも同じ状況だと思うんですよ。いろいろな出版社が出展するなかでアタシ社という得体の知れないブースがあって、チラ見だけされて素通りされることも多い。けれど立ち寄ってくれた人に本の説明すると、10分くらい考えた上で8割くらいの方が買ってくれます。
シンゴ:一見すると、とっつきづらい本なので、いわゆる町の本屋さんに置いても絶対に売れないんですよね。読者層を想像するとサブカル寄りな気がしています。じゃあ、そういう人がどこの書店に行くのかって考えたら、その土地その土地にある個性的なお店が思い浮かびます。
かよこ:「ジュンク堂」や「紀伊國屋書店」などの大型書店にも置かせてもらってますけどそんなに大きな動きはありません。でもミネ君が言ったような小さくても目利きのきいたセレクト書店さんは、多いところだと50冊ぐらい売れるんですよね。
アタシ社の本を欲しがるような人が集まる書店がどんなところなのかが見えたら、営業先も雑誌の売り上げも見えてきます。書店さんの規模の大小はあまり関係なくて、30冊以上売ってくれる書店さんを多くつくり、書店さんにも利幅の高い条件で置いていただける戦略にシフトしています。
シンゴ:日本にはおよそ1万軒の書店があります。もしもすべての書店に一冊ずつ置こうと思ったら、最低でも初版1万部ですよね。コストを考えたら絶対にできないですが。
だから限られた部数3000部を効率的に売っていく。かよこが言うように30冊売ってくれる書店さんを100軒つくり、信頼関係を築いて売っていただくほうがいいと思っています。