小学校の給食は「人間国宝の茶碗」で。鳥取県がめざす“日本一”の食育
過疎化や高齢化は日本社会が抱える大きな課題だ。とりわけ経済・産業活動の縮小が著しいのが地方である。さまざまな対策が各自治体で講じられているが、日本で一番人口が少ない県・鳥取県ではある興味深い取り組みが行われている。
それが日本財団が鳥取県と2016年に発足した「みんなでつくる“暮らし日本一”の鳥取県」の共同プロジェクトだ。日本財団の鳥取事務所所長として本プロジェクトにかかわってきた木田悟史氏は、2016年より鳥取県に移住し、住民たちとの交流を重ねるなかで2022年までの6年間で、250を超えるプロジェクトを推進してきた。そこから見えたキーワードは「濃いつながり」「おせっかい人材」「学びの場」だという。
今回は木田氏の著書『みんなでつくる“暮らし日本一”「鳥取県×日本財団共同プロジェクト」から学ぶまちづくりのヒント』の内容から、実際に推進されたプロジェクトのひとつである「伝統工芸と食育」について紹介したい(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)。
なんとも恵まれた「食育」!?
鳥取市のまちなかから20キロほど南、ゆるやかな山々に囲まれた谷合、西郷谷。ここではこの地を「工芸の郷」として活性化していこうというユニークな取り組みがはじまっています。この企画は一般社団法人「西郷工芸の郷あまんじゃく」(以下「西郷工芸の郷」)が主体となってスタートさせたもの。
「ここ西郷が工芸の郷であること、ものづくりに携わる人がたくさんいることを子供たちに知ってもらえれば、そして地域の人全体で工芸の郷を盛り上げていければという想いで企画しました。西郷小学校の子供たちがつくる喜びを感じてくれればうれしい」と「工芸の郷」構想を提唱し、お茶碗給食を発案した白磁作家で人間国宝(国の重要無形文化財保持者)「やなせ窯」の前田昭博さんはおっしゃいます。
2018年度に当時の6年生からはじめ、翌年度は4年生から6年生、2020年には2年生から4年生まで広げていきました。そして、2021年は学年ごとにそれぞれ新学期から2年生になる児童が使う茶碗を3月に制作。1年生はある程度学校に慣れてきてからということなのでしょう、今後は1年生の終わりに自分で器をつくって、2年生から卒業までその器で給食をという仕組みが完成したわけです。
「ワンダフルなオンリー碗」
子供たちが窯元に出向いて、すでにつくられた本焼き前の茶碗に「呉須(ごす)」(顔料)を使って思い思いの絵を描いたり、茶碗の高台(こうだい)に自分の名前を入れたりします。
最終的にはプロに仕上げてもらうわけですが、卒業までの5年間、使いつづけて自分の手になじませていく、まさに世界にたったひとつしかないオンリーワン。言葉遊びを楽しむなら「ワンダフルなオンリー碗」と言えるでしょう。
学校の給食について言えば、地域の食材を給食メニューに取り込む試みは各地で行われています。地域でとれた芋の皮むきを子供たちが担当し郷土汁をつくるとか、あるいは地元産のフルーツでデザートをつくるといった取り組みで、地域の食材のことを知ったり、その食材が自分のいのちとどうつながっているかなどを学んだりする「食育」です。