「テレワーク実施率」が伸びないなかで目指すべき“ハイブリッド型”とは/常見陽平
テレワークの問題は根深い。単にテレワークができるかどうかだけではない。どうやるかが問題だ。
政治家からも新型コロナウイルスショックや、東京五輪対応で「テレワークを進めてくれ」という声が聞こえてくるが、果たして、その一言で世の中すべてを動かせるのか。
先日、筆者(常見陽平)が大手企業の労働組合の幹部が集まる勉強会で講演し、意見交換したところテレワークに関するさまざまな思いが交錯しているのを実感した。
「混雑解消」から「感染症対策」へ
コロナ禍でテレワーク導入が進んだのは事実だ。制度導入率も実施率も、コロナ前よりも上がった。
ただ、経緯をたどると、2012年のロンドン五輪で現地当局が公共交通機関のピーク緩和を目的にテレワークを導入。その流れを受けて、当初予定されていた東京五輪に向けて国内でも推し進める動きがあったし、その実験的なテレワークデーのようなイベントもあった。
今回、五輪に合わせてテレワークを徹底するという趣旨の報道に対して、ネット上ではやや炎上気味になった。現状のテレワークには様々な問題があるものの、五輪時にはテレワークというのは既定路線ではあった。もっとも、それは当初は街の混雑解消のためだったが、感染症対策に切り替わったのではあるが。
ただ、実際には新型コロナウイルスの感染拡大が、テレワークを推し進めたのはいうまでもない。とはいえ、2020年4月の最初の緊急事態宣言時と比べると、2021年の実施率は低下している。
導入が困難な業種・職種も
東京都産業労働局が5月7日に発表した「テレワーク実施率調査結果」によると4月時点の都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は56.6%だった。第1回目の緊急事態宣言時の2020年4月には62.7%で、今年に入ってからも2月後半には64.8%となったが、その後、低下している。
アデコグループジャパンが4月28日に発表した「緊急事態宣言下のテレワーク実態調査」(対象:企業で働く人事・総務担当者1496名)でも、1回目の緊急事態宣言で全社的に実施した企業は42.3%で、年初の2回目の緊急事態宣言では、35.2%となり、7.1ポイント低下した。
日本の緊急事態宣言は、他国と比べて法的拘束力が決して強くはない。もちろんそれも要因に考えられる。また、出社した方がむしろ効率的に仕事をこなすことができるという考え方もある。ただ、導入が困難な業種・職種が存在する。さらには、企業規模による導入率、実施率の差も大きい。
先述の講演では、営業職、スタッフ職はテレワークができていたのだが、工場で製品を組み立てる職種などは、やはりテレワークを実施できていない。根本的に実施が困難なのである。
テレワークを実施できている職種であっても、例えば、Zoomなどを使った会議に対して「対面の方が、思いは通じる」「顔を合わせるべきだから出社させてほしい」とする意見もあり、単にテレワークか否かという話ではない、根深い問題があった。