“神泡”を名乗るのは不遜?サントリー「プレモル」に込めた覚悟
サントリービールの「ザ・プレミアム・モルツ」が好調だ。若者の「飲み会離れ」などでビール市場全体では苦戦しているなか、2019年の販売数量は対前年で101%と伸長している。
そんな同社が、ビール固有の価値である「泡」に焦点を当てて、消費者へ徹底的に訴求しているネーミングが“神泡”。
各社がビールの味のリニューアルを進めていくなかで、これまで当たり前のように存在した泡に着目したのはなぜだろうか? サントリービール株式会社マーケティング本部プレミアム戦略部の中野景介課長に話を伺った。
「神」と名乗ることが不遜になるかも
――ネーミングに「神」というワードが入っていることには驚きました。
中野景介(以下、中野):私たちが心配したのは、自分たちで「神」と名乗ることが不遜にあたるかもしれないということです。最初は「超クリーミー泡」のような当たり障りのないネーミングもいっぱい考えています。
しかしこれではお客様に訴求できないと思い、プレモルでしか言えない言葉を追求した結果として「神泡」という言葉が生まれました。
そこで、「“神”とつけた以上、本当に体感品質でお客様に『圧倒的にクリーミーな泡だ』ということを実感していただける自信があるのか?」ということについて、自身に何度も問いただしたのです。
そして、「サントリーは、ビール事業に進出した1963年当初から泡にこだわっている」「飲食店様とは1985年から一緒にセミナーをやっている」という歴史を背負っていることも踏まえ、「神泡」と名付けることに決めました。私たちが覚悟をもって決めたネーミングです。
「泡はビールの履歴書」という言葉
――そもそもなぜ、ビールの泡に焦点を絞ったのでしょうか?
中野:「神泡」のマーケティングを始めたのは2018年ですが、その前年の7月頃には「泡」での戦略を決定していました。実は、それまでのキャンペーンを実施している中で、お客様から「やっぱりプレモルは、泡を作って飲んだほうが圧倒的においしい」という声をたくさんいただいていたのです。
それも、私たちが思っている以上に「泡」という声をリクエストという形でいただいていたことから検討し、マーケティングとして展開するに至りました。
――それまでは“味”の開発をしていたと思います。“泡”となるとまた大変なのでしょうか?
中野:実は醸造家の中では、「泡はビールの履歴書」という言葉があります。泡の正体は麦芽のタンパク成分あるいはホップの苦味成分。いい麦芽とホップを使って手間暇をかけて醸造することにより、初めていい泡ができます。泡をよくするというのは、美味しいビールを作るということとほぼ同意義で、これまで通りの開発の延長線上にあるというイメージです。
そこで今回のマーケティングとしては、「神泡で飲んでください。そうすればプレモルがもともと持っている、華やかな香りと深いコクがより引き立って美味しく飲めます」というような伝え方をしました。