「東ラブ」「Mother」の脚本家・坂元裕二がテレビ初出演で語った胸中
娘の育児が大変だった経験が転機のきっかけに
脚本家の仕事と子育ての両立は、想像していた以上に大変で、その負担が重くのしかかったそうで、娘を怒鳴りつけてしまうこともあったほど追い詰められたそうです。
苦しくもあった子育ての経験をもとに、43歳の時に育児放棄された女の子について描いた『Mother』の執筆に取り掛かります。放映直後は、育児放棄をした女の子の母親に対して、視聴者から罵倒や非難の声が集まりましたが、坂本さんはその声に違和感を持ったそうです。
虐待を肯定しているわけではないと付け加えつつ「何も知らずに簡単にあの女性を否定することはできない」と番組の中で語っていました。
そこで、すでに完成していた脚本を大幅に変更し、脇役だった女の子の母親の人生を描くエピソードを追加することにしました。娘を愛していた母親がなぜ育児放棄をするに至ったのかを、坂本さん自身の経験をもとに描いたところ、「救われた」「他人事とは思えない」など、大きな反響が寄せられたそうです。
紆余曲折の果てに得た「少数派のために書きたい」
この作品で得た経験がきっかけとなって、生きづらさを抱える人のために、物語を書くことこそが、自分の使命だと悟ったという坂本さん。
番組の中で「多数派か少数派かっていったら少数派のために書きたい」と言い切りました。「僕はマイナスにいる人がせめてゼロになる。マイナス5の人が、マイナス3くらいになれることを目指している」と続けます。
かつてトレンディドラマの名手と呼ばれた坂本さんは、今はたとえ視聴率が取れなさそうなシリアスなストーリーになってしまっても、生きづらさを抱える人たちのことを丁寧に描き、1人でも救われる人がいることを願いながら脚本を書いています。
「登場人物が生きている」坂本さんの作品に称賛の声
「坂本さんの作品は最終回を迎えても、登場人物たちが自分の心の中に生きている感じがする」
「子育てに行き詰まった感じがリアルだったのは、御本人の経験をもとにされているからなのかと納得しました」
SNSでは、初めて明かされる坂本さんの素顔に称賛の声が呟かれていました。また、ドラマの登場人物が、今でも自分の中に生きていて、落ち込んだ時に自分を支えてくれるという声も多く寄せられていたのが印象的でした。
少数派の人のために脚本を書きたいと番組の中で話していましたが、決して少なくない人たちが、坂本さんの書いたストーリーや登場人物に救われているのではないでしょうか。
<TEXT/湯浅肇>