ストレス社会を生き抜くヒントを「ユダヤ人の過酷な体験」に学ぶ
今こそ知りたいストレス対処の「知恵」
この「首尾一貫感覚」は、人々の健康維持や良質な人生を送ることと密接な関係がある概念として研究者の間では広く知られていますが、それ以外の一般の人にはほとんど知られてきませんでした。
そんな半世紀近くも前に着想された古い研究成果を、なぜ今ごろ引っ張りだしてくるのかと疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし近年、国内外でこの「首尾一貫感覚=SOC」についての研究が進んでおり、アントノフスキー博士の業績が高く評価されています。また、多くの実証研究や新たな論点、活用法などが提起され、ますます注目が集まっています。
さらに私は、今の時代だからこそ、アントノフスキー博士が導き出したストレス対処のための貴重な「知恵」をもっと広めて、活用すべきではないかと考えています。
1970~1980年代は、日本経済も右肩上がりの高度成長期で、昨日よりも今日、今日よりも明日のほうが生活はよくなるという希望を持てた時代だったのではないでしょうか。何か問題が起こっても、それを解決する方策はきっと見つかると思えたのが、高度成長からバブルを謳歌する時期だったと思います。
しかし、バブルが崩壊した1990年代以降は、もはやそうした成長や成功は見込めず、人々の間に不安や不満が高まってきているように感じられます。未来に向けて、無邪気に夢や希望を持てなくなっている中で、不安やストレスに押しつぶされそうになる人々もますます増えてきているのではないでしょうか。
究極の「生きるヒント=首尾一貫感覚」
そんな現代を生きる日本人にとって、非人間的な強制収容所の過酷な体験を乗り越えて、なおも前向きに生き抜いた人々が身につけた究極の「生きるヒント=首尾一貫感覚」は、大いに参考になるのではないかと思います。
今回の著書では、難解とされる「首尾一貫感覚」を私なりにできるだけわかりやすく解説し、その感度を高めていくガイドブックの役割を担いたいと思います。そこで身につく「感覚」には、優れた点が3つあります。
① 「首尾一貫感覚」は先天的なものではなく、後天的に高められる感覚であること
② 何かの問題に直面した時に、その原因を「3つの感覚」を用いて説明できること
③ 困難に立ち向かうモチベーションが高まること
本書を読み終えた時、きっとあなたは“自分の人生は自分で変えることができる”という感覚を実感できるはずです。
<TEXT/舟木彩乃 構成/井野祐真>