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ストレス社会を生き抜くヒントを「ユダヤ人の過酷な体験」に学ぶ

学び

理論ではなく「感覚」

 そんなふうに自分の「意識」「捉え方」「視点」などを変えるための大きなヒントとして、今回の著書では「首尾一貫感覚(Sense of Coherence/SOC)」というものを紹介します。

 いきなり「首尾一貫感覚」「SOC」などといわれても、ほとんどの人はピンとこないと思います。

 この言葉は、心理学や医療社会学の分野ではよく知られているもので、別名「ストレス対処力」とも呼ばれていますが、今まで日本で大きな話題になったこともなければ、普通の学校で教わることもありません。初めて聞いたという方も多いと思います。

「首尾一貫」という言葉自体もわかりづらくて、難しい印象を与えますが、「Coherence(コヒーレンス)」という英語には、「首尾一貫」のほかに「統一性、全体感」という訳もあります。この言葉を、私なりにわかりやすく表現すれば、「いま目の前にあることだけでなく、過去や未来、自分以外の周辺の世界をより広く俯瞰した場合に、全体として整っている状態」を意味します。

 この「首尾一貫感覚」が高い人というのは、ちょうどサッカーの監督がフィールド全体を上からの視点で見て、ゲームの状況や今後の展開などを把握しながら指揮をとるようなイメージです。さらに、これを私たちの人生に置き換えてみると、現在の自分の状況や今後の成り行きなど、人生全体を見通して判断できることといえます。

ナチス強制収容所での過酷な体験

アウシュビッツ収容所

ナチスドイツ強制収容所 ©anneileino CC BY 00

 この「首尾一貫感覚」は、もともと1970年代に医療社会学者のアーロン・アントノフスキー博士(1923-1994)が医学的な聞き取り調査の成果として最初に提唱したものです。

 アントノフスキー博士は、第二次世界大戦下のナチスドイツの強制収容所に収容された体験を持つユダヤ人女性たちに着目しました。一生のトラウマになってもおかしくないような過酷な体験をした女性たちの中には、その後も厳しい難民生活を生き抜いたばかりか、更年期になってもなお良好な健康状態を維持し続けた人々がいました。

 博士は、そうした女性たちに共通していた考え方や思考を分析して、それを「首尾一貫感覚」と名づけたのです(山崎喜比古・戸ヶ里泰典・坂野純子編『ストレス対処能力SOC』、山崎喜比古著「ストレス対処力SOCの概念と定義」などを参照)。

 これは大きく3つの感覚からなっています。

■把握可能感─自分の置かれている状況や今後の展開を把握できると感じること
■処理可能感─自分に降りかかるストレスや障害にも対処できると感じること
■有意味感─自分の人生や自身に起こるどんなことにも意味があると感じること

 この3つの感覚については、後ほど詳述しますが、私が「首尾一貫感覚」について理解する際のポイントだと思うのは、これらが「感覚(Sense)」だということです。つまり、これら3つの感覚は、学術的な理論や学問として理解するよりも、成功体験や自己分析などを通じて、これらの感覚を高めていき、身体全体に染みわたっていくようになることが理想だと思います。

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