蛙化現象は2種類ある!?「本当に増えているかは疑問」と専門家
流行先取りメディア「Patrel」がPetrel公式Instagramアカウントの10~20代女性を中心としたフォロワーを対象にしたアンケート結果に基づいて選定した「2023年上半期部門別インスタ流行語大賞」を6月中旬に発表。その結果、好きだった人が振り向いてくれると急に冷めてしまう“蛙化現象”が1位を獲得した。
最近の若い女性は恋愛に天邪鬼なのだろうか。株式会社わんわんわんが10~50代の女性200人を対象に実施した調査によると、「実際に“カエル化現象”を経験したことがあるか」(50.5%)という問いに約半数が「ある」と回答。また、蛙化現象を起こしたシチュエーションについて、「コンビニのお会計の際に渡された小銭を落として、拾っている姿を見た時」「余裕そうな人が慌てて失敗をしている時」と答える20代もいた。
これらの結果を鑑みると、蛙化現象は若い女性の間では珍しくないのかもしれない。若い女性の恋愛観は、実際はどうなっているのだろうか。『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)の著者であり、金沢大学融合研究域融合科学系教授の金間大介氏に、蛙化現象する若者は増えているのか、現在の若者の恋愛観など話を聞いた。
蛙化現象は2種類ある
そもそも“蛙化現象”という現象について、金間氏は「蛙化現象には広義と狭義とで大きく2つのタイプがあります。株式会社わんわんわんの調査では、2つのタイプを一緒くたにされていました」としつつ、「まず2つの蛙化現象を解説します」という。
「広義の蛙化現象ですが、『実際に“カエル化現象”を経験したことがあるか』と回答したほとんどの人が該当するタイプ。言い換えると“過去に何かがキッカケで冷めた経験がある人”を指します。最近、急速に蛙化現象が知れ渡っている背景には、この広義の蛙化現象と狭義の蛙化現象がごっちゃになっていることが大きいです。
『100年の恋も冷める』という言葉は昔からある通り、そういった経験なら全女性の半数が『あり』と答えても全く不思議はありません。人には好みのタイプがあり、『生理的に無理』というタイプがあることも珍しくない。多くの人にとって広義の蛙化現象は馴染みがあるのも当然です」(金間氏)
一方、「狭義の蛙化現象は、時や場合によらず、相手にもよらず、“『好き』という感情を向けられる”と冷めてしまうタイプです。こちらが本物の蛙化現象と言えます」と金間氏は語る。
蛙化現象は増えている?
次に蛙化現象を起こす若者が増えている要因を聞くと、「『蛙化現象が増えている』ということがそもそも疑問です。増えているかもしれませんが、まだわかりません」とキッパリ。
「先述した通り、『蛙化現象が拡大解釈されたために、増えているように錯覚している』ということのように思っています。狭義の、本物の蛙化現象を起こす若者はどのくらいいるのか、そういう女性が増えているのか、ということは謎です。個人的には数%、クラスに一人くらいは存在する程度ではないでしょうか」
また、「蛙化現象を起こす人は見た目が魅力的な人に多い印象です。とはいえ、見た目が魅力的な人はより好意を向けられることが多いため、蛙化現象を発動しやすいだけかもしれません」と特徴を語る。
拒絶が怖い若者
「裏切られるのが怖いから本気になれない」「推しがいるから恋人に本気になれない」など、様々な理由から狭義の蛙化現象の発生につながっている印象を受けるが、どうなのだろうか。
「『裏切られるのが怖いから本気にならない』といった恋愛観と蛙化現象とは全く別の議論になると思います。今の若者には『本気って何?』『どうやったら本気になるの?』という感覚の人が珍しくありません。
その心理的背景として、最近の若者は『何かを得たい』という何かしらの獲得欲求より、『拒否されたくない』という拒否回避欲求のほうが強いです。賞賛獲得欲求は承認欲求の一部として考えられますが、それらはしっかりと持っています。しかし、拒否回避欲求のほうが強くなっているため、結果的に拒否回避の行動が表面に出る、ということです」
いい子症候群の若者
若者の心理状態が見えてきたが、新型コロナウィルスの感染拡大も何かしらの影響を与えた可能性がある。金間氏は「私は以前から“いい子症候群の若者”を提唱しています。いい子症候群とは、素直で真面目、だけど自らの意思を感じない、授業や会議では後方で気配を消すといった最近の若者の特徴を捉えた言葉です」と話す。
「また、基本的には自己肯定感が低く、目立つことが嫌い、自分に向けられた他人の感情が怖い、という傾向もあります。コロナ禍で定着したマスク生活やオンライン授業などは“いい子達”にとって、とても親和性が強く、よりいい子症候群を加速させました。いい子症候群は悪いことではありませんが、こと恋愛に関してはより若者遠ざける結果になった印象があります」
マッチングアプリは恋愛強者のもの
恋愛に後ろ向きな若者も出てきている一方、マッチングアプリが普及して、以前よりも恋人が作りやすい環境が整備された。環境の変化は若者の恋愛観にどのような変化をもたらせたのか。
「マッチングアプリが恋愛しやすい環境を作った、と言えばその通りです。ただ、この点で重要なことは、“基本的にマッチングアプリは恋愛強者のもの”ということ。アプリはわかりやすいスペック比較表で構成されます。要するにリアルの一部をわかりやすく切り取って可視化したものであり、その可視化対象となったのがスペックと呼ばれるものです。
最も重要なスペックは見た目であり、特に顔です。それから順に、年齢、見た目から受ける印象、年収などの各種数値化されやすいデモグラフィック指数、そして最後に書き込まれたテキストから読み取れる人柄、という感じです」
マッチングアプリの普及はモテる人がよりモテるようになっただけなのかもしれない。
見た目至上主義が加速中
また、金間氏は「アプリやSNSの浸透で、私は恋愛における見た目至上主義が急速に高まったと考えています」と説明。昨今、見た目で物事を判断する“ルッキズム”を自重する流れになっているが、それとは逆行しているようだ。
「その影響として、今の若者の“見た目偏差値“みたいなものがどんどん上がっている印象です。平均値が上昇している、とも言えるでしょう。これはアプリやSNSの浸透によってもたらされた若者達の努力の結果だと思います」
「蛙化現象を起こす若者が増えている」ということについては慎重に取り扱わなければいけない。ただ、いい子で、拒絶に対する恐怖心が強く、美意識が高い、という若者の特徴が見えてきた。若者と接する機会の多い人はそのことを頭に入れておくだけでも、上手く立ち回れるかもしれない。
<取材・文/望月悠木>
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【取材協力】
金間大介氏
金沢大学融合研究域融合科学系教授
【データ出典】
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