海外と逆行する「マイナンバー制度」の謎。情報漏洩のリスクをどう捉えるか
身辺調査に使われる時代が来る?
「そして、東京商工リサーチの公表資料によると、2021年に上場企業とその子会社で個人情報の漏えい・紛失事故を公表したのは120社、事故件数は137件、漏えいした個人情報は574万9773人分に達し、最多を記録したそうです。
このような状況が続くと、勤務先で人事を決定する判断材料として利用されたり、就職活動で企業側が求職者を採用するか否かの参考資料にされたり、はたまた結婚相手の身辺調査に使われたりする時代が来るかもしれません」
海外における同様の制度が現状どうなっているのかは気になるところだ。こちらも出口氏に聞いてみた。
「諸外国にも番号制度はあり、例えばアメリカではSocial Security Number(SSN)と呼ばれる番号制度が民間でも広く使われています」
他国はどんな状況なのか?
「しかし、2017年にアメリカの3大信用調査会社・エキファックスが、アメリカの成人の40%以上にあたる1億4300万人分の社会保障番号を含む重要個人情報が流出した可能性があると発表しました。SSNへの過度な依存の危険性が改めて認識され、現在の制度には欠陥があり、『見直す必要性がある』と広く認識されています。
また、韓国では住民登録番号を基盤にした行政サービスのデジタル化が進んでいました。しかし、大規模な個人情報流出事故が相次ぎ、2014年8月以降は企業が住民登録番号を使うことはできなくなりました。
かつて番号制を導入して民間も含めて広く利用を認めた国々では、個人情報流出事故の深刻さを認識して、利用範囲を限定するなどの見直しを進めています。日本政府は現在、個人番号を税・社会保障・災害対策に限らず、幅広く使おうと検討しており、諸外国における番号制度見直しの流れと逆行するものです」
アメリカや韓国と比べて後発組だからこそ、失敗から学べることは多くありそうだ。個人レベルで求められるのは、申し込むことうえでのリスクをきちんと把握しておくことだろう。
<取材・文/望月悠木>
※初出時に本稿の一部で出口様の名前を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします(1/22 16:29追記)。
【出口かおり】
弁護士。さくら通り法律事務所。1975年生まれ。「セックスワークにも給付金を」訴訟・弁護団、東京市民オンブズマンメンバー、特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事、JCLU(自由人権協会)会員