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「異常」な結果は当然?“人間ドックとがん検診”の知られざるデメリット

暮らし

健康診断を受けても総死亡率は下がらない

健康診断 イメージ

 私ももう20年近く人間ドックも健康診断も受けていないが、とりあえず健康である。早稲田大学に勤めていたころ、最初は毎年のように健診を受けろと言ってきたが、すべてスルーしていたら、そのうち何も言われなくなった。早稲田はいい大学だ

 多くの人は、より健康になりたいとか長生きしたいというモチベーションで健診や人間ドックを受けるのだろうが、定期的に健診を受けても総死亡率は下がらないことを示す臨床試験結果が欧米にはたくさんある。米国総合内科学会なんかは「毎年の健診は害のほうが多い」と明言している。

 日本では社員に健診を受けさせるのは企業の義務になっているが、そもそもアメリカにはそのような義務はないし、人間ドックも日本ほど浸透していない。アメリカ以外の先進国も似たような状況で、エビデンスのないものは信用できないということだろう。

「フィンランド症候群」を覚えているか?

 エビデンスもないのに、このシステムが立ち上がり、そのままのかたちで継続している日本の状況のほうがそもそも異常なのである。また、健診や人間ドックで「異常」を指摘されると、医者のアドバイスによる改善策を始める人が多いだろうが、かえって害のほうが大きくなることを示す調査結果もある。フィンランド保健局が管理職につく1222人の40~45歳の男性を、

① 1974年からの5年間、4か月ごとに定期健診を行い、医者が「適切」な介入をして、血圧やコレステロール値などを管理するグループ(612人)
② ①と同じ5年間、定期健診も介入もしないグループ(610人)

 の2つに分け、15年後の健康状態を調べたところ、介入群の死者は67人で非介入群の死者46人を上回ったのである。特に心疾患死(介入群34人、非介入群14人)と事故や自殺、他殺などの外因死(介入群13人、非介入群1人)では大きな差があった。なお、がん死に関しては介入群13人、非介入群21人と非介入群のほうが多かった。

 この調査結果が発表されたのは1991年で、一部のマスコミが「フィンランド症候群」という名で取り上げたりもしたので、当時はそれなりに話題になった記憶はあるが、いつの間にか立ち消えになった。もちろんその後も健診や人間ドックのあり方が見直されたわけではない。それどころか、前述のようにさらに基準を厳しくしているようなありさまである。

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