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「異常」な結果は当然?“人間ドックとがん検診”の知られざるデメリット

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がん検診で命が守れるわけではない

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 がん検診の効果も似たようなもので、がん検診の広がりとともにがんが見つかる人の数は増えているが、高齢化が進行していることと相まって、がんで死ぬ人の数はむしろ増えている。「命を守るためにがん検診を受けましょう」などと言っているが、必ずしもがん検診で命は守れないのである。

 がん検診のメリットとされるのは、「症状が出る前のごく初期のがんを発見できる」ということのようだが、がんにはいろいろなタイプがあり、早期に発見して早期に治療することで完治できるタイプのがんは、実は症状が出てから治療したとしても完治できる可能性が高い。

 一方で、「超」と言われるほど早期に発見され、早期に治療ができたとしても、結局、再発して結果的に命を落とす人もいる。つまりがんが治るかどうかは、早期に発見できたかどうかよりも、「完治できるタイプのがんかどうか」にかかっているのだ。こう言っては身も蓋もないけれど、今の医療によって治せるがんは急いで発見しなくても治せるけれど、治せないがんはどんなに早く発見しても治せないのである。

 早期発見したことで簡単な治療で済むというメリットがあるのはもともと治るタイプのがんである。ただし、治らないタイプのがんはほとんどが転移性のがんであり、そういうがんはたとえ早期に発見されたとしてもその時点ですでに別の部位に転移している可能性が高い。

早期に見つからないほうがいいこともある

 発見した時点ではどっちのがんかはわからないので、後者のリスクを考えて、手術で病巣は取り切ったと言いながらも、医者は念のために抗がん剤治療を勧めてくるのだ。どちらのタイプのがんであっても、悪いところは切っておくに越したことはないと多くの人が思い込んでいる、というか思い込まされているけれど、もしもそれが転移性のがんだった場合、かえってよくないことが起きてしまう

 原発病巣を手術で刺激してしまうと、メスが入った場所に播種による局所再発が起こったり、転移病巣が急激に増大したりして、急激に病状が悪化することがあるのだ。つい最近まで元気だったのに検診でがんが見つかり、手術したらたった数か月で帰らぬ人に……といったことが起こるのはまさにそのせいだ。

 つまりヘタに治療をすることで命が縮まることもあるわけだから、仮にそれが治らないタイプのがんであった場合には、早めに見つかることはデメリットでしかない。

 発見されたときには手の施しようがないほど悪化していたりすると、「もっと早く発見していれば……」と悔やむ人も多いし、「だからこそがん検診を!」みたいな話になるけれど、早く発見されていたりしたらもっと早くに死んでいた可能性も高く、考えようによっては、最終段階になるまで発見されなかったからこそ、ここまで生きてこられたとも言えるのだ

<TEXT/生物学者 池田清彦>

生物学者。1947年、東京都生まれ。東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻単位取得満期退学、理学博士。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『専門家の大罪-ウソの情報が蔓延する日本の病巣』(扶桑社新書)ほか

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