エステー女性社長が“個性派商品“に根付かせたブランド価値の大切さ。対話に苦労した時期も
「ルイ・ヴィトンの人」で苦労した時期も
鈴木氏は、ラグジュアリーブランドから日用品を扱うエステーへ来た際に「ブランド価値を上げ、大切な資産として守っていく気概がない」ことを感じたという。エステーには消臭力やムシューダなどのブランド資産があるのに、それをうまく活用しようとしていなかったのだ。
そこで、デザイン革命に着手する最初の段階でブランドの整理を行い、次いでこれまで培ってきた「資産」を生かす意識を根付かせることに勤しんだ。だが、社員の意識変革を起こすことはそう簡単ではなかったようだ。
「商品開発の担当者はこだわりが強く、毎年新商品を出すたびに、自分の好きな名前を商品につけていました。ただ、このままだとブランドとしての統一感や価値を逸してしまうため、とにかく『ブランドの大切さ』を説いて回ったんです。2013年に社長の座を任命されて以来、『ブランド価値経営』を掲げ、社内に浸透させようと尽力してきたものの、『ルイ・ヴィトンから来た人だからブランドって言葉を使っている』という見方をされ、うまく社員との対話ができずに苦労しました」
どうやったら社員にブランドの価値が伝わるのか。そう考えた鈴木氏は、結果を出して周囲に認めてもらうために汗をかいた。ターゲットに据える女性が手に取りたくなるのはどのような商品か。女性の感性を生かしつつ、自ら率先して手を動かし、デザインの提案をすることに奔走したという。
ブランド価値やデザインの重要性を理解させる
こうして日の目を見たのが2015年に発売した「シャルダン ステキプラス」だった。社長就任から3年、粘り抜いた結果、同商品の大ヒットにこぎつけたのだ。
「鍵のチャームを付け、エレガントな世界観が伝わるようなデザイン性を意識し、女性が手に取りやすい商品として市場に投入したのが『シャルダン ステキプラス』でした。これまでの価格や容量といった機能的価値だけを訴求するのではなく、女性の琴線に触れるような情緒的価値を付与したことで、大きなヒットにつながりました。この成功をきっかけに、社員のマインドが変化し、ブランド価値やデザインの重要性を理解してくれるようになったんです」
さらに、高付加価値商品を受け継ぐ形で、同じく2015年からは「消臭力 Premium Aroma(プレミアムアロマ)」を発売した。
「私が手を動かさずとも、社員による積極的な提案によって商品開発が進められていきました。競合他社と価格や容量だけで勝負していれば、いずれはジリ貧になってくる。『価格競争』から『価値競争』へと転換してきたことで、他社にはない優位性を生み出すことができたわけです」