ジブリを支えてきた監督が、宮崎駿にかけられて「愕然とした言葉」
――セリフはほぼありませんし、ラストもにおわす程度ですね。でもそのことによっていろいろな想像ができて、結果、心に残ります。
山下:ラストも最初はメッセージが明確だったんです。でも分かりやすさは極力省こうと。もちろん、小さな子がただぼ~っと見てもおもしろいようにも作っています。でもよく分からないからもう1回観たいなと思ってもらえるような作りを意識しました。
世の中には説明しすぎの作品が溢れているので。表情で分かるのになぜセリフで言うのとか。そこまでしなくても人は分かるよと思うことが多かった。だから今回、僕はお客さんに挑戦状を投げてみたんです。分かりやすい作品もいいですけど、自分なりの理解や解釈ができる作品もあっていい。お客さんを信用しようと。
宮崎駿監督から受けたアニメーション演出の神髄
――山下監督というと、やはりジブリ作品の印象が強い人も多いかと思います。宮崎駿監督からはどんな影響を受けましたか?
山下:宮崎さんからは多大な影響を受けました。最初は末端の原画マンでしたが、そのうちにメインスタッフに入れて、ダイレクトに宮崎さんの言っていることを聞けるようになり、あぁ、演出というのはこういうものかと感じました。
分かりやすいところで挙げるなら、『ハウルの動く城』の城のデザイン。あのデザインはハウルの人物像そのものを表している。大仰でいかつい見た目ですが、裏側を見ると張りぼてで中身は空っぽ。下手に説明するのではなく、城のデザインのみで主人公の内面を表現してしまう。そうした演出の凄さが、宮崎さんと仕事をしていると次々と伝わってくるんです。
――絵だけで人物の内面を表現しうるし、表現しなければいけないと。
山下:アニメーションでできることってそういうことなんだと。何を誇張するかによって、いろんな表現ができる。ほかにも宮崎さんの言葉で残っているのが、あるとき、僕が「アニメーションだからといって子供だましじゃいけませんよね」と言ったことがあったんです。きっと傑作を作り続けている宮崎さんだから、高尚な考えでモノを作っているだろうと。
そしたら「所詮、アニメーションなんて子供だましです」とおっしゃったんです。愕然としました。でもこれは、「気を抜くと、アニメーションはすぐに子供だましになってしまう。だから気を抜いちゃいけないよ」という意味だと受け取りました。高尚なものだなんて思いながら作ってはいけないと。