生きづらさを抱える発達障害グレーゾーン。過敏で傷つきやすい人たちも
虐待やいじめを受けたりした過去が
新しいチャレンジを避けていると、生活は同じことの繰り返しになりやすい。もともと同じパターンに固執しやすい傾向があるわけではないにしても、結果的に、同じ行動パターンや生活スタイルが、いつまでも続くことになる。行動だけで見ると、同一のパターンへの執着があるのとあまり変わりがないことになってしまう。
このように、恐れ・回避型愛着スタイルを抱えている場合には、ASDとの見分けが難しくなることも珍しくない。
見分けるポイントは、恐れ・回避型の場合、安心感の乏しい境遇で育っていたり、虐待やいじめを受けたりした過去が浮かび上がる。そして、根強い対人不信感も特徴だ。ASDだけであれば、過敏ではあっても、人間に対してそこまで悲観的ではない。
あの文豪も苦しんだ「恐れ・回避型」
恐れ・回避型愛着スタイルを抱えて苦しんだ人の一人として、文豪の夏目漱石を挙げることができる。漱石は幼いころ里子に出されたり、また実家に戻されたり、再び養子に出されたり、また引きとられたりを繰り返し、実家にもどこにも居場所がないというじつに不安定な境遇で育った。漱石が作家として活躍するようになってからも、かつての養父が金をせびりに来たりして、漱石を苦しめた。
漱石は敏感で、子どもの上げる声にイライラして怒鳴ったり、妻に手を上げたりすることもたびたびだった。単に感覚が過敏というだけでなく、自分に悪意をもたれていると妄想してしまうことを止められなかったのだ。
漱石の最高傑作とも言える『こころ』には、信じていた叔父から騙された主人公が、自分もまた親友を裏切り、死に追いやってしまうという深い心の傷と人間不信が描かれているが、人が信じられない主人公の苦悩は、漱石の苦悩そのものだったと言えるだろう。
<TEXT/精神科医 岡田尊司>