現役慶應大生、ネグレクト被害者から支援者に。行政も救えない「孤独」との闘い
24時間365日、年齢や性別を問わず、誰でも無料・匿名で利用できる相談窓口「あなたのいばしょチャット相談」を運営しているNPO法人「あなたのいばしょ」。チャットを使って、誰かに頼りたくても頼れない、話したくてもその相手がいないという、孤独を抱える人の相談相手となっています。
そんな日本初となる24時間無料チャット相談を立ち上げたのは、現役の慶應大生で当時20歳だった大空幸星(おおぞら こうき)さんです。彼が若くしてこのNPOを立ち上げたのには、自身も幼少期、「望まない孤独」に悩んだ原体験が背景にありました。
小学生のときに両親が離婚した大空さんは、暮らし始めた父親から虐待を受けるようになり、のちに母親に引き取られます。しかし、母親との暮らしでもネグレクト状態にあり、10代半ばの多感な時期に孤独感をさらに強めました。
その後、進学した高校で、大空さんが抱える家庭の事情と孤独に気づいてくれた恩師と出会い、ようやく信頼できる人を得られた大空さん。このとき、大学進学を含め、将来について「何をやればいいか」を考えたとき、あることに気がつきました。(以下、大空さんの著書『望まない孤独』より一部編集のうえ、抜粋)
ひとり親家庭の子どもは相談できる人が少ない
漠然と何をやればいいか考える生活を続けていく中で、アルバイト先で一緒になる人たち(注:親から虐待を受けていた女子高校生や、大学進学を目指して働いていた20代の同僚、戸籍のない人)の存在が目に留まった。彼/彼女の壮絶なストーリーと私(大空幸星)のなかなかハードモードな人生を重ね合わせたとき、1つの共通点があった。それは「ひとり親」であるということだった。
私自身は、両親が離婚したあと、シングルファーザーとなった父と暮らし、のちに再婚した母親のもとへ行ったが、また離婚し、やはりシングルマザーとなった母親と暮らしていた。
ひとり親家庭で育つ子どもの共通点があるとすれば、それはそもそも頼れる人の絶対数が少ないというところだ。「父親には頼りづらいから母親に話す」「母親には言いにくいから父親に言う」ということが基本的にできないのだ。
「児童訪問援助事業」の実績を見たときの衝撃
加えて、どちらかの親と良好な関係でない場合、家庭内で瞬時に頼れる人を失い、孤独に陥ることになる。祖父母という選択肢もあるだろうが、ひとり親の親、すなわち祖父母はやはりひとり親である場合も多い。
実際、私の母方の祖母もひとり親として、私の母を育てた。私は祖父に会ったこともないし、生死も不明だ。やはり、ひとり親で育つ子どもたちは、そうでない家庭の子どもと比べると、誰かに頼るチャンスが圧倒的に少ないのだ。
私は、ここにとてつもない理不尽さを感じた。何かサポートがないのかと、アルバイトの空き時間、何となくインターネットで検索していると「児童訪問援助事業」を見つけた。
「児童訪問援助事業」は、「ひとり親家庭の児童は、親との死別・離婚等により心のバランスを崩し、不安定な状況にあり、心の葛藤を緩和し、地域での孤立化を防ぎ、新しい人間関係を築くなどの援助を必要としている。こうした状況を踏まえ、ひとり親家庭の児童が気軽に相談することのできる児童訪問援助員(ホームフレンド)を児童の家庭に派遣し、児童の悩みを聞くなどの生活面の支援を行う」(厚生労働省ホームページより)という事業だ。