東大卒ITベンチャー取締役が、ベルリン銀熊賞『偶然と想像』に携わった背景
自主映画でも採算が取れる
――他の2人の役員を説得して会社から出資したとのことでした。
高田:2人とも映画は門外漢だったので基本的なことから説明しました。世の中には映画会社はもちろん、テレビ局、出版社、広告代理店などの億単位の大きな資本が入って作る「商業映画」と呼ばれるものと、主に映画監督をはじめとした作り手の小さなお金を元に製作される「自主映画」と呼ばれるものがあると。
そして、映画の製作費が1000万円以下の小規模の自主映画か、大手の映画会社の作る数億円以上のものの商業映画に二極化され、中規模の映画は淘汰されつつあるけれども、きちんとした脚本をある程度予算を掛けた映画を作って上映すれば、投資した資金を十分回収できると説明しました。
しかも、僕たちが映研で映画を撮っていた8ミリフィルムで映画を撮影する時代とは異なり、技術は発達していました。極端な話をするとスマホでも映画が撮れるようになり、人件費以外のコストは下がって来ています。なので、濱口監督は時間を掛けて映画を作りたいというので人件費は掛かるかもしれませんが、その他の費用はさほど掛からないという見込みがありました。
きちんと伝われば観客はついてくる
――「自主映画=儲からない」というイメージなのですが、その点はどのように説明したのでしょうか。
高田:残り2人の役員には「儲かるよ」ときちんと言いました(笑)。その時は「関西に拠点を移して演技のワークショップをやり、その結果として映画を撮影する」という企画はありましたが、プロットもできていない状態です。
しかも、当時、濱口監督は東京芸大の修了製作作品として作った『PASSION』(’08)が評価され、東京フィルメックスなどで上映されていましたが、「面白い映画を作る若手がいる」と一部の映画が好きな人にだけ知られていた存在でした。でも、濱口監督の映画はとっつきにくい「アート映画」ではなく、普通の人が映画館を通りかかってたまたま見ても、「面白い」と思うような広がりのある映画を作っています。
なので、また面白いものができて、きちんと人に伝われば観客はついてくると思ったんです。それで弊社役員2人が了承してくれたので映画製作を始めました。