なぜチンパンジーは半身不随でも幸福なのか?イライラを収める驚きの仕組み
厚労省の統計では、いまの暮らしに強いストレスを感じると答えた労働者の数は58%を超え、その数は、年ごとに増え続けています。何らかの生きづらさを感じ、安らかに日々を過ごせない人が増えつつあるのは世界的な傾向のようです。現代人の苦しみが絶えないのはなぜでしょうか?
そこで、今回は『無(最高の状態)』(クロスメディア・パブリッシング)の著者で、サイエンスライターの鈴木祐氏(@yuchrszk)に、「怒りの仕組み」について解説してもらいました。
なぜチンパンジーは半身不随でも幸福なのか?
京都大学の霊長類研究所で暮らすチンパンジーのレオが半身不随の重体に陥ったのは、2006年のことです。病名は脊髄炎。ほぼ寝たきりとなったレオのために、教員と学生によるつきっきりの介護が始まりました。
首から下を動かせないまま行動の自由を奪われ、寝床と身体の圧迫で血流が止まったせいで細胞が死に、全身を耐えがたい痛みが襲い続ける。たいていの人間ならば人生に絶望し、鬱病に襲われてもおかしくない状況です。
しかし、レオに絶望の様子はありませんでした。身体の痛みや空腹の辛さを訴えはするもののそれ以上の苦しみは表さず、ときに笑顔を浮かべる余裕すら見せたのだとか。尿検査でもストレスホルモンは正常値を保ち、レオが半身不随の苦境をものともしなかった様子がうかがえます。
着実にリハビリをこなしたレオは1年で座れるようになり、3年後には歩行機能を取り戻しました。人間ならいつ絶望に飲み込まれてもおかしくない状況で、レオはどこまでも平常心を保ち続けたのです。
哺乳類は「苦しみ」をこじらせない
動物と人間には重要な違いがあります。それは、哺乳類は「苦しみ」をこじらせない、という点です。
人間なら数年は苦しみが続く悲劇が起きても、不安で眠れない苦境に襲われても、動物たちは少しの間だけネガティブな感情を露わすだけで、すぐ以前の状態に戻ります。
人間の飼育下にある動物なら抑鬱や神経症に近い行動を見せることもありますが、野生の動物が慢性的な不安や鬱に悩むケースはなく、精神疾患が観察されたこともありませんでした。